アマチュア作家の成り上がり小説ブログ

素人作家がどこまで高みに昇りつめることができるか

おわり

「……夢を見ていた気がする。長い夢を……」

「どうしたんです」

「ああ、白鳥君、君も起きたか」

「なにをいってるんです、そんな昔の名字を言って」

「……そうか……そうだったな……さやか、お前はもう僕の妻だったな」

「それも、もう50年も前のことですよ」

「お前も年を取ったな」

「あなたこそ」

「でも、今でもお前と初めてあった、あのときの姿をありありと思い出すよ。そして、初めてお前を抱いた日のことを。あの時、お前がどんなに美しかったか、どんなにお前を愛おしいと思ったか」

「あなた、恥ずかしいわ。そんな昔のことを今になって」

「……もうすぐ正月だな。息子たちは帰ってくるのかい」

「ええ、みんな帰ってくるっていってましたよ。孫まで連れてくるから、布団の準備が大変です」

「子どもに孫、みんな合わせて17人だっけか……これも、みんな、お前のおかげだよ。お前は、僕に素晴らしい贈り物をしてくれた」

「わたしこそあなたからたくさんのものをいただきました。わたしはあなたと一緒になれて、本当に幸せでした」

「なあ、さやか。もう一度、キスしてくれないか」

「なんです、こんな年になって。それにわたしはもうおばあちゃんですよ」

「そんなことはない。お前は今でも美しい――それにぼくたちはエロの研究から、出会ったんじゃなかったかい」

「ふふ、そうでしたね。あのときのあなたは本当にエッチでしたね」

「……さやか、エロとはエロスのことなんだよ。愛智を求めることなんだ。それはとても大事で、とても素晴らしいことなんだよ。さやか、僕もそう長くはないだろう。ぶんちくの奴も昨年あの世に旅立った」

「そんなこと言わないで」

「いや、いんだよ。死の先にこそ生があるんだ。そしてぼくらはいつまでも一緒じゃないか。さやか、お前を離しはしない、僕たちはずっと一緒だよ」

「あなた……」

「さやか、お前を愛している」

「わたしも、あなたを愛しています」

「ねえ、さやか、仏教の言葉にこんな言葉があるんだ

妙適淸淨句是菩薩位
 男女交合の妙なる恍惚は、清浄なる菩薩の境地である

慾箭淸淨句是菩薩位
 欲望が矢の飛ぶように速く激しく働くのも、清浄なる菩薩の境地である

觸淸淨句是菩薩位
 男女の触れ合いも、清浄なる菩薩の境地である

愛縛淸淨句是菩薩位
 異性を愛し、かたく抱き合うのも、清浄なる菩薩の境地である

一切自在主淸淨句是菩薩位
 男女が抱き合って満足し、すべてに自由、すべての主、天にも登るような心持ちになるのも、清浄なる菩薩の境地である

見淸淨句是菩薩位
 欲心を持って異性を見ることも、清浄なる菩薩の境地である

適悅淸淨句是菩薩位
 男女交合して、悦なる快感を味わうことも、清浄なる菩薩の境地である

愛淸淨句是菩薩位
 男女の愛も、清浄なる菩薩の境地である

慢淸淨句是菩薩位
 自慢する心も、清浄なる菩薩の境地である

莊嚴淸淨句是菩薩位
 ものを飾って喜ぶのも、清浄なる菩薩の境地である

意滋澤淸淨句是菩薩位
 思うにまかせて、心が喜ぶことも、清浄なる菩薩の境地である

光明淸淨句是菩薩位
 満ち足りて、心が輝くことも、清浄なる菩薩の境地である

身樂淸淨句是菩薩位
 身体の楽も、清浄なる菩薩の境地である

色淸淨句是菩薩位
 目の当たりにする色も、清浄なる菩薩の境地である

聲淸淨句是菩薩位
 耳にするもの音も、清浄なる菩薩の境地である

香淸淨句是菩薩位
 この世の香りも、清浄なる菩薩の境地である

味淸淨句是菩薩位
 口にする味も、清浄なる菩薩の境地である

 さあ、さやか、一緒に行こう。そこは、ずっと二人だけの安らかな世界だ。そこは、清らかで清浄な菩薩の世界だ」

 

菩薩の世界

 

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