アマチュア作家の面白い小説ブログ

素人作家がどこまで面白い小説を書くことができるか

【ダークファンタジー小説】『リバイアサン』

 

はじめに

 この作品は、カクヨムで書いた長編の中で、最も多くの星(★)をいただいた作品で、聖書世界をテーマにし、神とは何かを問うダークファンタジーとなっています。ミステリーの要素も幾分混ざってますので、あまり肩肘張らずにお読みいただければと思います。

 かなりの大長編で、実はまだ完結していない作品です。なので、第一部までの分を連載形式で毎日投稿していきたいと思います。

 

本編

プロローグ

 この物語を始めるにあたって、どこから語り始めればいいのか思い悩む。始まりを探そうと思えば切りがない。もしかすると、歴史を全て語らねばならないことにもなりかねない。それではあまりにも冗長になるだろうし、読者の興趣をそぐことにもなるだろう。

 だから、あの事件のことから話そうと思う。確かにあの事件から急速に歴史は動き出した。歴史が動くときには、必ず始まりとなるようなエポック的な事件があるものだ。だが、いつの時代もそうであるように、同時代の人はその事件の重要性に思い至らず、いつの間にか忘れ去ってしまう。しかしあとから考えれば、あれが歴史の発端だったと気づかされる。この物語は確かにあの事件から始まった。

 

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第一章

(一)リュウという名の少年

 白い雲が流れていた。

 リュウは屋上に突き出した階段室の上で寝そべりながら、流れる雲をぼんやりとながめていた。くだらない授業など受けるつもりはなかった。かと言って、子どもたちが泣きわめく孤児院に戻るつもりもなかった。とにかく早くこの狭苦しい街から出たい。あの白い雲のように誰にも束縛されることなく自由に世界を歩きたい。雲を見ながら、そんなことばかり思っていた。

 太陽が東の空から中天に登り、そして今度は西の空に傾きかけたころ、突然下から話声が聞こえてきた。どうやら誰かが屋上に上がってきたらしい。

「――そうか、それじゃお前も大変だな。親父は酒であたって半身不随、母親は他に男を作って出ていったんじゃな」

 

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(二)マナハイムの夜

 リュウが住むマナハイムの街は人口三万人程度だが、国境近くにあるため隣国と交易するものたちの往来が盛んで街は大いに栄えていた。旅人が多いこうした交易都市で酒場や娼館が賑わうのは歴史の常であるのかもしれない。アルコール臭が混じったごみ溜めのような匂いを充満させたマナハイムの繁華街は毎夜毎夜、たまの憩いを酒で紛らわすものたちや、溜まりに溜まった性欲を満たそうとする男たちでいつも賑わっていた。

 そんな笑い声や怒鳴り声が飛び交うマナハイムの繁華街をリュウはいつものように黙りこくって歩いていた。旅の客を自分の店に誘い入れようとするけばけばしい化粧をした女たちがそこかしこに立っていたが、歩いてきたのがリュウだと知ると皆こそこそと話をしながらそっぽを向けた。だがリュウはそんなことは歯牙にもかけず、繁華街の外れにある古びた酒場の戸を開いた。

 

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(三)孤児院

 リュウが住む孤児院は国教会が運営している身寄りのない子どもや乳飲み子を抱えた寡婦を住まわせる施設であった。そう言えば聞こえはいいが、住んでるものにとってみればなんのことはない、浮浪者のたまり場のごとき施設で、個室などあるわけもなく、大きな広間の中で各々がわずかばかりのスペースを確保し、支給された薄い毛布一枚にくるまり、毎夜毎夜、寒さに震えながら夜を耐えているのだった。赤子がミルク欲しさに泣きわめこうものなら、至る所から「うれせえ!」、「静かにしろ!」とヤジが飛び、母親は赤子を担いで急いで外に出なければならなかった。ある意味、母親付きでここにいられる赤子は、ここに住む大半の子どもらに取ってみれば、嫉妬の対象以外のなにものでもなかった。ほとんどの子供が親を亡くし、親に捨てられ、親に虐待されてきたものたちだった。親の愛など感じたこともなく、人の善意など理解すらできないものたちであった。何かあればすぐに喧嘩。強いものが弱いものを脅し、恫喝する。結局、子どもたちは地獄を抜けてきたと思ったら、今度は修羅の世界で生き延びなければならなかった。

 施設の者はというと、日に三度の食事を与えることしか自分の職務と思っていないらしく、その他のことには一切干渉しなかった。一応、施設長と呼ばれる司祭がいたが、朝の朝礼の時に空疎な挨拶を長々としゃべるしか能のない男で、ここに住む子どもたちにとってみれば侮蔑の対象でしかなかった。

 

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(四)自由への歩み

 リュウは丘の上に立つとマナハイムの街を振り返った。月明かりに照らされて教会の尖塔が見えた。その隣にはリュウがいた孤児院があった。思い出とよべるようなものはなかったが、それでも何年かの時を過ごした場所には違いなかった。

 リュウには家族がいなかった。いや、家族の記憶がなかった。ある時、自分が孤児院で過ごしていることを不意に悟った。だが自分がどんな経緯でここにいるのか知りたいとも思わなかった。なぜなら、ここに住む子どもたちは誰一人として過去を語るものがいなかったからだった。誰もが心に闇を抱えていた。そういう子ども同士が一つ屋根の下に押し込まれればどんなことになるか。

 

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第二章

(五)預言者の死

 首都ウルクの外れにある森の中の質素な一軒家に多くの人が詰めかけていた。
 国王の側近、大司教、騎士団の総長、他にも商人組合の長や石職人の代表ら、各界の主だった顔が大勢集まっていた。重責を担い、国を支えるものたちが、かくも多くこんな辺鄙な場所に集まっているのには理由があった。今日、預言者エトが最後の預言を与えると連絡があったからであった。

 預言者エトは神の言葉を聞くことのできる唯一の人間であった。神は常にエトを通じて御言葉を伝え、その御心を世界に伝えてきた。ところがこの十年というものエトは黙したまま語らず、じっと家に引きこもり、国王や教会からの招請があっても、ついぞ家を出ることはなかった。そのエトが齢百を超えて己の死期を悟ったのか、最後に神の言葉を告げたいと言い出したのだった。

 

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(六)聖騎士レインハルト

「レインハルト! 紅茶が冷めちゃうよ!」

 台所の方からリオラの声が聞こえたが、レインハルトは返事をするのを忘れるほど目の前の手紙に目を奪われていた。レインハルトが読んでいるのは預言者エトからの手紙であった。エトが世を去ったことはもちろん知っていた。そして、その恐るべき預言のことも。レインハルトはここしばらくの間、そのことでずっと心を痛めていたが、ようやく待ちに待った手紙が届いたのであった。

 レインハルトは聖騎士であった。聖騎士とは神が必要に応じて、この世に遣わす戦士であった。神は預言者の口を通して聖騎士を選び、その任を与えるのであった。聖騎士はあらゆることを免れていた。国王ですら聖騎士を従わせることはできなかった。なぜなら聖騎士は預言者の言葉によって神の業をなすためだけに存在するものであるからであった。

 

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(七)追剥と商人

 リュウはマナハイムを飛び出した夜からいっときも休むこともなく、ひたすら道を急いでいた。どこに行くあてもなかったがマナハイムの近くに留まっているのは危険であることは分かり切っていた。

 騒がしい表街道は避けて裏道を歩いていたが、それでも至る所に関所ができているため大きく迂回せざるをえず、なかなか先に進むことができなかった。しかしその警備の物々しさには妙な違和感を覚えた。最初は自分が犯した殺人のせいかと思ったが、それにしては大げさすぎるほど早馬が何度も走ったり、騎馬隊や兵士の群れがときおり駆けて行った。結局、リュウは昼間は動くのをやめて、夜間のみ移動することにしたのだった。

 

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(八)狂気

 冷たい風が吹いていた。暗い雲が空全体を覆っていて、とにかく昏かった。草木一本はえていない荒涼たる大地が見果たす限り続いていた。空腹だった。なんでもいい、食べるものが欲しかった。それに寒かった。凍えるように寒かった。自分がなぜこんなところを歩いているのか分からなかった。いったい自分がどこから来たのか、どこに行こうとするのか……何も分からなかった。ただひたすら歩いていた。

 どこからか泣き声が聞こえていた。遠くの方……いや、誰かが近くで泣いている……誰かいるのか、自分のほかに誰かいるのか。誰でもいい、こんなところに一人でいたくない。誰でもいい、自分と一緒にいてほしい。どこにいるんだ。どこで泣いているんだ……どこにもいないじゃないか。誰が泣いているんだ。どこで泣いているんだ……もしかして、泣いているのは自分なのか……

 

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(九)豚の群れ

 同じように怒り狂っている男がいた。せっかく楽しみにしていた余興を台無しにされ、民衆の前で豚呼ばわりされた署長だった。署長はぷるぷると震えながら、物凄い形相でリュウの前に近づいてきた。

「――神など、どうだっていんだよ! てめえは俺に這いつくばらねえといけねえんだよ!」

 そう言うと、署長は思いっきりリュウの顔面を殴った。何度も何度も殴った。前歯が折れた。鼻梁が折れた。残った左目からも光が消えた。それは拳による虐殺だった。

 相変らず周囲は静まり返って、誰一人声を出すものはいなかった。みな署長の怒りが自分に及ぶの恐れて、見るに堪えぬ光景をひたすら我慢して見続けていた。

 

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(十)神意

「やめろ!」

 静まり返っていた広場に、堂々たる声が響いた。その声は戦場で万の兵を叱咤する将軍の命のように、その場にいた全てのものの腹に響き渡った。さしもの署長の耳にもその声は届いたと見えて、顔をあげてきょろきょろと声の主を探した。すると一人の剣士が群集の間から現れた。それを見た群衆がひそひそと話し始めた。そしてその声はだんだんと大きくなっていった。

「あの男、もしや聖騎士レインハルト様じゃないか」

「そうだ、あの方のお姿を一度お見かけしたことがある」

「ああ、あの胸当てに刻まれたエンブレムを見ろ。百合の紋章だ、聖騎士の紋章だ!」

 

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第三章

(十一)医師ルーク

 レインハルトはリュウが運び込まれた医者の家にいた。リュウはベッドの上に寝かされていたが、切り裂かれた腹は既に糸できちんと縫合されていた。リュウの傍にはリオラがいて、リュウの手を握り必死に祈っていた。

「どうだ。この男、助かるであろうか?」

 レインハルトは、手術をやり遂げて脱力したように椅子に座っていた医師に声を掛けた。医師はレインハルトの顔を見ると、答えにくそうに小さくつぶやいた。

「……だいぶ出血しております。内臓もだいぶ損傷しているようです。後は彼の生命力次第です。生きたいと願う力があれば、戻ってくるでしょう」

 

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(十二)ジュダという男

 この時代、敵の侵攻に備えるために国境都市は堅固な城壁に囲まれており、城の中央にその都市の最も重要な施設が集まっているのが普通で、マナハイムも同様の造りとなっていた。レインハルトは教会の尖塔が見える街の中央に向かって歩いていた。すると、そちらの方から兵士の一団が向かってくるのが見えた。一団はレインハルトの姿を見ると、急に走り出してきて、その周りを取り囲んだ。剣は構えてはいなかったが、明らかにレインハルトを連行するよう命令されていると見えて、どの兵士の顔にも緊張の色が見えていた。その中から隊長と思われる兵士がレインハルトの前に進み出て、硬い表情で言った。

「聖騎士レインハルトですか」

「いかにも、私がレインハルトだ」

 

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(十三)ジュダという男 2

 ジュダはレインハルトが部屋を出ていくと、にやりと笑った。その顔は神の名を口にして祈りを捧げたさきほどまでの真摯な顔とはまるで違っていた。その表情には傲慢で邪悪な笑みが宿っていた。ジュダは机にあった呼び鈴を鳴らした。すると数秒もせぬうちに執事のアモンが別な扉から現れた。アモンは目の前の美しい主人に腰をかがめると甘ったるい声で尋ねた。

「いかがでございました。あのレインハルトという男は」

 ジュダは優雅にソファーに腰を掛けると、くくと笑いをこらえきれぬように言った。

 

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(十四)リュウの過去

 一人で荒野を歩いていた。
 自分以外誰もいない荒野。
 いつも夢に見る孤独な世界。
 また、誰かの泣き声が聞こえていた。
 どこか遠くから聞こえてくるようでもあり、すぐ近くで泣いているようでもあった。
 ひどく体が重かった。
 足は鉛のように重く、一歩動かすことさえ苦しかった。
 だが歩き続けた。どこに行こうとしているのかも分からないが、とにかく歩き続けた。
 前に進みたいのか……いや、もしかすると、何かから逃げているのかもしれない。
 だがいったい、何から逃げているのだろう。もしかして、その泣き声の主から逃げているのだろうか。
 分からない。
 分からない。
 リュウの魂はいまだ冥府の中にあった。
 リュウの魂はいまだ行き先を決めかねていた。

 レインハルトが辿り着いたのは、リュウが育った孤児院だった。ルークのいうとおり、孤児院とは名ばかりで貧民窟のような汚らしい建物だった。建物の前ではみすぼらしい格好の子供が三人、しゃがんで石ころで遊んでいた。レインハルトはその輪にはまるように腰を屈めた。子供たちはいきなり輪に入ってきたレインハルトを興味深げに眺めていたが、意外にも子どもたちの顔には卑屈さはなく、目は澄んで光があった。

 

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(十五)エトの手紙

『そなたがこの手紙を見るとき、すでに、わたしの死とわたしが残した言葉が、風のようにそなたの耳にも入っていることだろう。

 レインハルトよ、私の死も、私の言葉も真実である。
 神は、私たちにいつも優しい眼差しを向けられ、温かい手を差し伸べてこられた。だが、私たちはいつもそれに甘え、それを当り前だと勘違いし、神の大いなる御意思によって、この世界が作られているのだということを忘れ果ててしまっている。よく考えてみれば、この世界がどれほど神の慈愛に満ちているか分かりきっているではないか。太陽が輝き、月が照らし、風が吹き、川が流れ、大地が実りをもたらす。神はあらゆる生き物にも意味を与えられ、あらゆる命が複雑に絡み合い、互いに支え合って生きている。それだけでも神の知恵と愛がどれほどのものであるか分かろうというものだ。

 

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(十六)暗闇の中で

 歩いていた。ひたすら歩いていた。
 ずっと聞こえていた泣き声はいつの間にか消えていた。
 その代わりに、はるか先の方に誰かが歩いているのが見えた。
 重い脚を引きずりながら、その背中を追った。
 見覚えのある背中だった。
 ローブを羽織って、少し腰が曲がって杖を突いていた。

 必死になって重い足を動かし、その背中に追いつこうとするのだが、その距離は縮まるどころか離れていくばかりであった。
 思わず叫んでいた。
 待てよ……待ってくれ! エト、俺を置いてかないでくれ!
 そうだエトだ、あれはエトだ。
 俺に言葉と歴史を教えてくれた。
 温かいスープと心地よい寝床を与えてくれた。
 初めて人の優しさを教えてくれた。笑い方を教えてくれた。 

 

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第四章

(十七)聖堂会

 リュウは順調に回復していた。
 ルークはリュウが回復してきたのを見計らって、少しづつリュウの身に起こったことを話していった。だがリュウはルークの話をまるでおとぎ話のように聞いていた。だいたい、神が神意を示されて、あの署長が豚に喰われて死んだなどと言われても、リュウには全く実感がわかなった。しかも聖騎士レインハルトが君を救ったのだとルークは熱っぽく語るが、肝心のレインハルトはどこに行ったのか、目覚めの時以来、リュウの前に姿を現さなかった。つまりリュウが信じられるのは、ルークと言う人の好さそうな医者の家で自分が寝ていることと、リオラと言う少女が自分の看護をしていることだけだった。

 そのリオラは、いつ寝ているのかリュウが訝しがるほどに、ずっとリュウのベッドの脇にいて、身の回りの世話をしていた。と言ってもリオラは必要以上のことは何もしゃべらなかった。時折、本を読んだり、窓からマハナイムの街を眺めたりはしたが、それ以外は優し気な面持ちでただ黙ってリュウの顔を眺めていた。

 

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(十八)恐怖

 ある朝、リュウが朝食を食べていると、今まで一度も顔を見せなかったレインハルトが突然部屋に入ってきた。レインハルトはリュウが朝食を全て平らげているのを見ると満足げに微笑み、リュウに声を掛けた。

「だいぶ、回復してきたようだな。そろそろ歩く訓練をした方がいいな。だいぶ体が鈍っているだろうからな」

 リュウは部屋に入ってきたときからレインハルトを睨みつけていたが、その言葉を聞いた途端、レインハルトに噛みついた。

「おい、てめえがレインハルトか」

 

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(十九)レインハルトの過去

 リュウはルークの指導のもとに歩行練習を開始していた。相変わらず側にはリオラがいて、リュウを見守っていた。

「だいぶ、歩けるようになったじゃない。この調子なら、あと二週間もすれば、すっかり元気になるね」リオラは嬉しそうに言った。

「なんで、てめえはいっつも俺の側にくっついてんだよ。目障りなんだよ、たまにはどっかにいけよ」リュウは憮然とした様子で言った。

「たまにはって、じゃ、だいたいは一緒にいてほしいんだ」リオラは笑った。

「ふざけんな! そんなわけねえだろ。てめえがいると気が散るんだよ。早くどっかいっちまえよ!」

 

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(二十)彷徨

 この一年という日々は、レインハルトにとってかけがえのない日々だった。生まれて初めて家族のぬくもりを知った。生まれて初めて人から愛された。自分が笑えるということを知った。自分が人の役に立てるということを知った。生きることの喜びを知った。この世界に生きていんだと知った。

 今朝まではこんな生活が一生続くと思っていた。それが一瞬のうちに失われた。自分の魂が一瞬のうちに打ち砕かれた。

 レインハルトは何も考えられなかった。ふらふらと外に出て、そのまま森を彷徨い歩いた。腹も空かなければ、喉も乾かなかった。目はうつろで足取りはおぼつかなかった。それでも、ふらふらと歩き続けた。

 

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(二十一)屈辱

 リュウの体はすっかり回復していた。

「ねえ、少しはゆっくり食べたら」

 リオラはもりもりと朝ご飯を食べるリュウの姿を見て、少し呆れ気味に言った。
 リュウは一気にスープを喉に流し込むと、ようやく満足したようにほっと息をついたが、すぐにリオラの方を向くと命令するように言った。

 

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第五章

(二十二)不審な男たち

 旅立ちの用意が整った。レインハルトとリュウとリオラは別れの挨拶をすべくルークの前に立った。

「ルークよ、お前には大変世話になった。お前は立派な医者だ。これからもお前の手で苦しみに喘ぐ人の苦痛を少しでも和らげてやって欲しい」

 レインハルトが感謝の念を湛えながら言った。

「聖騎士レインハルトよ。あなたは私に光を与えてくれました。あなたの言葉は私にとって、神の言葉と同じです。あなたのおっしゃるとおり、私は自分ができることを一生懸命に尽くしていきたいと思います」

 

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(二十三)不審な館

 半刻ほども歩いたろうか。レインハルトの前に古びた建物が見えてきた。三階建てのだいぶ大きい建物でいくつも窓があるのだがどこも真っ暗で一階にあるたった一つの窓からだけ灯りが洩れていた。

 男は建物の正面玄関の前に立つと、どんどんと戸を叩いた。しばらくすると中から足音が聞こえ、のぞき窓が開いた。

「誰だ」低い男の声が聞こえた。

「俺だ……」

 

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(二十四)ドラコ

「聖騎士レインハルトよ。あなたが想像しているのは全くの誤解です。この孤児院のことを全て説明しますので、どうぞ、その席にお座りください」

 男は薄笑いを浮かべ、レインハルトに座るように促した。レインハルトは目の前の男をしばらく見つめていたが、静かに席に腰を降ろした。それを見た男もにやりと笑うと、再び席についた。

「聖騎士レインハルトよ。私はこの施設の責任者のアザゾというものです。この施設は恵まれない子どもたちを養っていますが実は孤児院ではありません。それどころかもっと意義深い施設なのです。ここでは親の虐待に苦しむ子どもたちを引き取り、食を与え、技術を教え、あるものは大工に、あるものは鍛冶屋に、あるものは剣士に育てているのです。そして、大きくなれば世に送り出し、請け負ったものたちにはしっかりと賃金を支払うように指導し、子どもたちが十分に生活ができるようにしております。聖騎士、レインハルトよ、これのどこが不法だというのでしょう。私たちは、まさに神にかわり、救われない子どもたちを救っているのでございます」

 

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(二十五)施し

 リュウたちが子どもたちとともに焚火の周りで暖をとっていると、レインハルトが戻ってきた。

「レインハルト、お帰り!」リオラが笑顔でレインハルトを迎えた。

 しかし、レインハルトの顔は冴えず、疲れたように腰を下ろした。リオラは温かい紅茶をカップに注いでレインハルトに渡すと、その横に座った。

「どうしたの? 何かあったの」

 

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第六章

(二十六)鉱山都市ゴラン

 ゴランは首都ウルクとマナハイムのちょうど中間に位置する鉱山都市であった。この付近の山々には金鉱脈が走っており、街には金を掘り出すものや金細工師、金を商うもの、金を贖うものたちがあふれ活況を呈していた。またこの街は現国王の弟君であるマナセ大公の直轄地であり、ここから掘り出される金には目方に応じて税金が掛けられ、その収入は莫大なもので大公の懐を大いに潤していたのだった。

 レインハルト一行がこの街についたのは、もう日も暮れようという頃であった。一行は街に入るとまずは繁華街を目指した。この時代、宿屋を利用するなどというものは素性のしれないものたちであり、犯罪者であることもままあるので、そういったことを承知で泊めてくれるところなど、日頃から荒くれ物相手に商売している酒場以外にはありえなかったからである。

 

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(二十七)白昼の惨劇

 表で馬の嘶く声がした。そしてすぐにどすんと大きな音が響いた。

 リュウとリオラは何事かと、すぐに表に飛び出した。そこには、だいぶ腹の肥えた騎士が地面に尻もちをついて目をぱちくりさせていた。どうやら騎士は落馬したようで、口取りをしていたと思われる少年がなんとか馬をなだめようと必死になって抑えていた。

 その光景を見ていた連中は、騎士ともあろうものが無様に落馬したのを見て、失笑気味にひそひそと話をしていたが、その嘲りの声が聞こえたのか、騎士は急に立ち上がると、ようやく馬を落ち着かせたばかりの少年を大声で呼びつけた。そして、おどおどしながら騎士の前に立った少年に向かって怒鳴り声をあげた。

 

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(二十八)執政官ザケエス

 リュウは警官に囲まれて、小高い丘の上に立てられた大きな建物の中に連れて行かれた。そこは警察署ではなく、この街の行政を一手に引き受けている執政官の館であった。リュウはすぐさま大広間に連れて行かれ、豪奢な椅子の前に引き立てられた。後ろ手に縛られていたリュウは恐れる様子もなく傲然としてその場に突ったっていたが、いきなり怒声が響いたかと思うと後ろから蹴り倒された。

「執政官のお出ましであるぞ、頭が高い! 平伏さんか!」

 よろめいて床に倒れたリュウの体を数人の警官が上から押さえつけた。それでもリュウは顔だけは挙げて、燃えるような目で目の前の椅子を見つめた。

 

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(二十九)息子

 翌朝、レインハルトたちはゴランの街を後にした。

 あのあと三人は宿に戻ったが、レインハルトは昼間のことについては何一つ言わなかった。それがリュウには気に食わなかった。街を出た後もリュウはむすっとしたままで、リオラが何度かリュウに話しかけたが、その都度うるせえと言って、前を歩くレインハルトの背中をじっと睨みつけるのだった。夜になり、適当なところに場所を見つけて夕食をとった後、いつものようにリオラが入れてくれた紅茶をみんなで味わった。そこでもレインハルトは美味そうにお茶を啜るばかりで、リュウには一言も声をかけなかった。とうとう堪忍袋の緒が切れたリュウがレインハルトに向かって文句を言い始めた。

 

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第七章

(三十)鍛冶師マッテオ

 レインハルト一行はウルクの街に立っていた。

 首都ウルク。現国王のお膝元にして、マナセ大公ほか多くの貴族や有力者が住まう国の中枢。富裕な商家が軒を連ね、莫大な富が集まる熱狂と享楽の都。何十万という人間が吸い寄せられるようにこの街に集まり、まるで肥やしのように街を太らせていた。だが、その繁栄の陰では弱者のうめき声が絶えることはなかった。

 レインハルトはどこか行く当てがあるのか、すたすたと街の中を歩き、ある一軒の鍛冶屋の前で歩みを止めた。中からは職人たちの鉄を打つ音が聞こえてきたが、その音に交じって、なにやら怒鳴り声も聞こえてきた。

 

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(三十一)精神病院

 レインハルトたちはマッテオの弟子のレビの案内で、リュウがいたという精神病院に向かって歩いていた。場所は聞いたのだが、マッテオは弟子に案内させるからと言って聞かず、レビをつけてくれたのだった。
 道すがら、レインハルトは隣を歩くレビに声をかけた。

「レビよ。つかぬことを聞くが、このウルクでの聖堂会の評判はどうだ?」

 レビは肩をすくめるようにして答えた。

「聖堂会はここでも大人気です。誰も彼も狂ったように聖堂会、聖堂会と騒ぎ立てています。最近では教会にいくものよりも聖堂会の集まりに行くものの方が多いくらいで、師匠のマッテオなどは、あってはならんことだと毎日憤慨しています」

 

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(三十二)老刑事

 レインハルトたちは病院を後にして、看護婦から教えらえたジェームスという男の家に向かった。運よくジェームスは家にいて、レインハルトたちを快く迎えてくれた。

 ジェームスは聖騎士レインハルトの来訪にも驚いたが、リュウがあの事件の唯一の生き残りだった少年だと聞いて、腰を抜かさんばかりに驚いた。だが、リュウの立派に成長した姿を見ているうちに感極まったのか、ジェームスは涙ぐみながらリュウの手を取った。

 

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(三十三)糸口

 レインハルトたちは病院を後にして、看護婦から教えらえたジェームスという男の家に向かった。運よくジェームスは家にいて、レインハルトたちを快く迎えてくれた。

 ジェームスは聖騎士レインハルトの来訪にも驚いたが、リュウがあの事件の唯一の生き残りだった少年だと聞いて、腰を抜かさんばかりに驚いた。だが、リュウの立派に成長した姿を見ているうちに感極まったのか、ジェームスは涙ぐみながらリュウの手を取った。

 

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第八章

(三十四)訓練

「おい、ブラム! お前、何度言ったら分かるんだ! こんなもんでお客が満足すると思ってるのか! 覚える気がねえなら、さっさとやめちまえ!」

 リュウとリオラはやることもなく工房の作業を見物していたが、相変らずのマッテオの大声に思わず微笑んだ。マッテオと弟子たちの間には深い愛情と信頼があることを知っていたし、怒鳴り声をあげるマッテオも、その傍らで一生懸命、刀を研いでいるブラムも、その眼は真剣そのもので、いいものを作り上げることに全ての情熱を注いでいるのが素人目にも分かるからであった。

 

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(三十五)マナセ大公

 レインハルトはマナセ大公に面会するために、大公が住む宮殿を訪れた。その宮殿は豪華絢爛たる造りで、まるでこちらが王宮であるかのような錯覚さえ覚えた。衛兵に案内され謁見の間で待つことしばし、大きな靴音とともにマナセ大公が部屋に入ってきた。

 正面の御座に座った大公はレインハルトの姿を見ると、旧知の友に語るように親し気に語り掛けてきた。

「レインハルトよ、そなたに会うのは何年ぶりのことであろうか。なんとも懐かしいことだ」

 

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(三十六)国王ヨセウス

 レインハルトはマナセの宮殿を出て、その足で王宮に向かった。床に伏したままのヨセウスに会うためであった。レインハルトが来意を告げると側近たちは喜色に満ち、さっそくヨセウスに取り次いだ。ヨセウスはレインハルトの来訪を聞くと、まるで息を吹き返したように喜び、寝室に通せと側近に告げた。側近に案内されヨセウスの寝室に入ると側近は下がり、レインハルト一人が中に残された。

 レインハルトの目の前にはベッドを少し上げて体を起こしたヨセウスがいた。英邁の誉れ高く、常に毅然とし、その背後からはまるで光輝が放たれているかのように輝いていた国王ヨセウス。今、そのヨセウスの額には深い皺が刻まれ、げっそりと頬こけて、小人のように小さくなっていた。ただ、その眼だけはかつてのように慈しみの心を写し、レインハルトに優しい微笑みを向けていた。

 

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(三十七)アイン皇子

 王宮の庭を歩いている若者がいた。
 庭にはたくさんの花々がそれぞれの美しさを競い合うように咲き乱れていたが、この若者の美貌を前にしては、美しい花々も主役を譲らざるをえなかった。女官たちは皆うっとりとしてその若者の顔を眺め、男たちですら息が止まったようにその若者の姿を目で追ってしまうのであった。

 アイン皇子。
 マナセ大公の長子にして、次代の王を約束された若きプリンス。子どもに恵まれなかった国王ヨセウスは、ことのほかアインを可愛がり、三年前から王の側近く仕える身となり、今ではヨセウスの全幅の信頼を得て、ヨセウスの言葉は全てアインの口を通じて臣下に伝えられるのであった。しかしアイン皇子はただ美貌を誇るだけの若者ではなかった。学を好み武を尊び、そして何よりも何物も畏れぬ胆力を兼ね備えていた。

 

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(三十八)新時代

「臣民に告ぐ。

 この世に悪が蔓延り、神をあなどる風が広がっている。それは全て私の不徳の致すところであり、私の不明が撒いた種であった。だが、皆も今一度、己を顧みて欲しいのだ。そこに己の利欲のみを欲する心がありはしないだろうか。人に施しを与える気持ちを忘れてはいないだろうか。己さえよければ他人はどうなってもかまわないとする卑しい思いが心の中にありはしないだろうか。

 臣民よ、思い出して欲しい。私たちの国はいつもこのようであったろうか。今は豊かで平和な国となったが、かつてはこの国も戦禍に巻き込まれ、最愛のものたちを失い、明日の食事も事欠く日々があったことを思い出して欲しいのだ。そのとき私たちは互いになぐさめあい、食事を分かち合い、力を合わせてこの国を創り上げてきたのでなかったか。今、私たちが当たり前と思うことがどれほど尊いことだったかを思い出して欲しいのだ。その当たり前のことを与えて下さるのが、他ならぬ神だということを思い起こして欲しいのだ。神が人を愛して下さるからこそ、神は私たちに糧を与え、憩いを与えてくださる。暖かい日をもたらし、豊かな日々をもたらしてくれる。そのことに感謝すること、それが神を称えるということなのだということを今一度思い出して欲しいのだ。

 

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第九章

(三十九)儀式

 暖炉の灯りのみが唯一の光源である薄暗い御堂のような部屋に奇妙な男たちが六人ほど集まっていた。男たちと言ったが、体格から察するに男たちであろうと言うべきか。なぜなら、彼らはみな仮面をつけていたからであった。山羊の仮面をつけた男がいた。馬の仮面をつけた男がいた。象の仮面をつけた男がいた。蛇の仮面をつけた男がいた。鳥の仮面をつけた男がいた。そして、道化の仮面をつけた男がいた。

 仮面の男たちは部屋に設えられた祭壇に向かって、なにやら低い声で詠唱していた。古の言葉なのか、それとも何かの呪文なのか、彼らが何と言っているのかはよく分からなかったが、ただときおりダイモンという言葉だけがかろうじて聞き取れた。

 

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(四十)聖堂会のマスターたち

 仮面をつけた男たちが円卓に座っていた。相変らず室内は薄暗く、円卓の上に置かれた燭台の灯だけが部屋をぼんやりと照らしていた。男たちはさきほどと同じように奇怪な仮面をつけて素顔を見せることはなかったが、彼らの間では誰が誰であるかは分かっているらしく、ひそひそとした話し声が湿った空気を震わせていた。

 そんな中、道化の仮面をつけたものが口を開いた。

 

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(四十一)成長

 リュウとマッテオが向き合って対峙していた。リュウは構えるというほどもなく木刀を掴んで立っていた。対するマッテオもいつでも来いとばかりにだらりと木刀を下げていたが、その眼はリュウの一瞬の動きも見逃すまいと真剣そのものだった。緊迫した空気が辺りに漂い、二人の対決を横で見るレインハルトやリオラも真剣な眼差しでその様子を見つめていた。

 二人が対峙してから一分ほども経っただろうか、リュウが横にふわりと動いた。マッテオはその動きを追うように体の向きを変えた。

 その瞬間、リュウが地面を蹴り、宙を飛んだ。その動きはこれまでレインハルトが見たものよりさらに速さを増していた。木刀の切っ先がマッテオの喉もとに迫った。マッテオはその突きをのけぞりながら脇に逃げて交わすと、返す刀で無防備になったリュウの背中めがけて木刀を振り下ろした。だがいつもなら木刀で叩きつけられるはずのリュウの背中はそこには既になく、リュウの体はすでにマッテオの脇を通り抜けていた。

 

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(四十二)策謀渦巻く王宮

 レインハルトは謁見の間で群臣が立ち並ぶ中、新しい国王となったマナセの前に悠然と立っていた。レインハルトは聖騎士であり、これまでの習わしから国王と言えどレインハルトを膝まづかせることはできないからであった。マナセは、階下とはいえ自身と対等の如くに屹立するレインハルトを内心忌々しく思いながらも、表情は努めて柔らかくレインハルトに語り始めた。

「レインハルトよ、よく来てくれた。そなたも知っておろうが、兄ヨセウスが亡くなったばかりだというのに礼儀も知らぬイラルのものどものがこれ幸いと我が国に攻め寄せてきたのだ。我が軍も必死に戦っているのだが、イラルのものどもは兄ヨセウスが亡くなったことで士気が上がっているようで、いささか手こずっておる。なにせ、兄ヨセウスは過去の大戦でイラルのものどものを完膚なきまでに駆逐し、やつらにとっては目の上のたんこぶであったからな。だが幸いなことに我が国にはまだそなたがおる。そなたが赴けば、やつらはそなたの名を聞いただけで意気消沈し、もしやすると戦わずに兵を引き上げるかもしれん。どうだレインハルトよ。あの時と同じように、そなたの手で我が国を救ってもらえぬだろうか」

 

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(四十三)聖騎士の務め

 食事も終わり、寝室に入ったレインハルトは、この間ずっと黙ったままで今も隣のベッドに寝っ転がって天井を見ているリュウに目をやると静かな声で言った。

「リュウよ、お前にだけは真実を話しておこう」 

 リュウはその言葉を聞くと、体を起こしてレインハルトの方を向いた。

「今回、私がイラルの兵を相手にすることになったのは王宮の陰謀によるものだ。おそらく、王宮は私を亡き者にするためにイラルと共謀して事を起こしたのだろう」レインハルトはまるで他人事のように言った。

 

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(四十四)イラルの思惑

 翌日の朝、旅の準備を整えたレインハルトとリュウは出立の挨拶をすべく、リオラとマッテオの前に立った。

「マッテオ、お前には面倒をかけるが、リオラのことをくれぐれもよろしく頼む」

 マッテオはレインハルトの言葉を聞くと、大きく胸を叩いた。

「任せておけ! お前には遠く及ばんが、俺も千人力のマッテオと呼ばれた男。俺は俺のできることをしっかりと果たすつもりだ」

 

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第十章

(四十五)ジュダとアイン

 ジュダは王宮の中を歩いていた。
 このエリアは、王家のプライベートな空間なのだが、ジュダはそんなことを全く気にすることもなく優雅に歩いていた。女官たちはジュダの姿を見ると脇に下がり深々と頭を下げたが、ジュダが通り過ぎるとその美しさに魅入られたようにその後姿をいつまでも見つめていた。ジュダは中庭に出ると、そこに立っていた執事に声を掛けた。

「アイン皇子は、いつものところか」

 執事は突然のことに慌てたが、それでも礼を失せぬように頭を下げ、「はい、少し前に入っていかれました」と答えた。

 

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(四十六)若き日のレインハルト

 月明かりがあたりを照らす中、リュウとレインハルトは国境の街ダンを目指して裏街道を急いでいた。王宮に入った報告によると、イラルの軍勢は一万の大軍をもってダンを包囲し、もはや猫の子一匹這い出る隙間もなく、いまやダンの住民はイラルの総攻撃は今日か明日かと生きた心地もせず、ただひたすら中央の援軍を待っているとのことであった。おそらくイラル軍も至る所に斥候を放ち、ウルクの動向を探っていると思われたので、レインハルトとリュウは目に付きやすい表街道は避けて裏道を進んでいた。

 山々を超えるうちに、次第に峰は厳しくなり、国境の山脈が見え始めた。目指すダンの街は山脈の切れ目にある交通の要衝であり、あと一日もあれば、たどり着けるところまで来ていた。レインハルトはリュウに、今日はここらで休もうと声を掛けた。リュウは軽く頷くと、道から少し離れたところに空き地をみつけ、野営の準備を始めた。
 簡素な食事を済ませたレインハルトとリュウは、お茶を飲みながらわずかな憩いのときを過ごしていた。

 

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(四十七)若き日のレインハルト 2

 雨が降っていた。
 その雨はレインハルトの体を濡らしたが、レインハルトは雨が降っていることすら気づいていなかった。レインハルトは、自分が目にしているものが信じられなかった。レインハルトの前には小さな墓石があり、そこにはエリザと刻まれていた。

 あの美しい、可愛らしい、エリザはもうどこにもいなかった。食事の後には美味しい紅茶をいれてくれた。エトや神の御使いのもとで学ぶ自分をいつも温かい眼で見守ってくれた。たまの休日に二人だけで出かけていき、匂い立つような花畑の中で抱きすくめると、エリザは恥じらいながらも身を任せてくれた。その彼女はもうすでにこの世にはなく、こんな小さな墓石の下で眠っているのだ。レインハルトは立っていることができず、思わず膝をついた。そして、まるでエリザに触るように墓石に手を添えた。だがその墓はエリザの柔らかく暖かい肌とは似ても似つかないほど、ごつごつとして冷たかった。

 

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(四十八)勇者イロンシッド

 ダンの街を包囲するイラル軍の幕屋の中で、全軍を率いるタルタンが椅子に寄りかかりながら一人の偉丈夫を引見していた。その偉丈夫は二メートル近い大男で、筋骨たくましく精悍な顔立ちをして、タルタンの前に傲然と立っていた。

「イロンシッドよ、ウルクが寄こしてきた報告によると、レインハルトは従者を一人連れて、こちらに向かっているそうだ。おそらく一両日中にもこの地に現れることになろう。我が軍の目的はレインハルトを抹殺することだが、二万の兵をもって、たった一人をなぶり殺しにするなど恥知らずもいいところだ。よってイラル一の勇者であるお前にレインハルトとの決闘を命じたい。あのレインハルトを討ち取れば、そなたの名は天下に轟くことになろう。どうだ、イロンシッドよ、やってみぬか」

 

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(四十九)戦士としての歩み

 レインハルトとリュウは街道を何事もない様子で歩いていたが、その道の両脇にはイラルの兵士がずらりと並び、レインハルトとリュウを取り囲んでいた。さきほど使者が現れ、イラルの将、タルタンがレインハルトと面会したいとの向上が伝えられたが、レインハルトは「分かった。伺おう」とだけ言い、そのまま、使者に案内されるようにその後ろを歩いているのだった。

 リュウは、時折、自分たちを凝視しているイラルの兵士たちをじろりと見渡したが、誰も彼も体が大きく、獰猛な顔つきをしていた。イラルの兵士からすれば、レインハルトは憎んでも殺しても飽き足らない男であった。レインハルトの鬼神のごとき活躍のせいで、イラルは先の大戦で百万の兵のほとんどを失ったのだった。おそらく、ここにいる兵士たちの多くのものが父や家族たちを失ったに違いなかった。一つ箍が外れれば、レインハルト目掛けて襲い掛かってきそうな雰囲気がありありと伺えたが、何かが彼らを押しとどめていた。それはレインハルトの体から放たれる威圧のようなものだった。

 

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(五十)死闘

 イラルの兵二万が見守る中、リュウとイロンシッドが対峙していた。イロンシッドは既に二メートルを超える長大な剣を抜いて軽々と振り回していた。だがリュウはそんなイロンシッドに惑わされることなく、冷静にイロンシッドとの距離だけを測っていた。

 イロンシッドはかなり熱くなっていた。レインハルトと戦うことだけを考えていたイロンシッドにとっては、こんな若造と戦うなど思いもしていなかったし、自身への侮辱であると感じた。加えて、この戦いを見つめている兵士から憧憬の眼差しで見られているイロンシッドにとっては、こんな戦いは一瞬で終わらせねばならなかったし、誰もがそれを期待していよう。そうした自身の思いや周囲の期待に満ちた視線が、いつものイロンシッドなら気づくであろう正常な判断を奪っていた。目の前の男がただの若造ではなく、類まれな剣士であるということを。

 

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(五十一)勇者の死

 イロンシッドは冷静だった。右腕は切り落とされたが、イロンシッドは意に介する風もなかった。断面から血がだらだらと溢れ出ていたが、それはかえって血がのぼったイロンシッドの頭を冷ましているようにさえ感じさせた。

 これだけの血が流れているのだから、普通であればイロンシッドの方が焦るはずなのに、焦っているのはリュウの方だった。どうにも飛び込む隙がなかった。下手に飛び込んだら、あの長大な剣で真っ二つにされそうな気がした。

 

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(五十二)神の怒り

 レインハルトはイロンシッドの死を見届けると、リュウを見た。

「リュウよ、お前は神の試練に打ち勝った。お前は神に選ばれた聖騎士としての一歩を歩み始めた。だから、神がお前を死なせるはずがない。今はゆっくりと眠れ」

 レインハルトは、そう言うと、軽く微笑みながらリュウの頬を触った。そして、レインハルトは立ち上がった。目の前には、侮りの眼でこちらを眺めるタルタンと、たった一人になったレインハルトを嘲笑う二万の軍勢が取り囲んでいた。

 

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第十一章

(五十三)館での虐殺

 どこか知らない館にいた。
 目の前に妙なやつらがいた。一人、二人……六人か、そいつらは変な仮面をつけて、何か低い声で呪文のようなものを唱えていた。その声は重苦しく、そして何か禍々しく、聞いているだけで心がざわざわと嫌な感じがした。そいつらは部屋の中央の大きなテーブルを囲んで呪文を唱えているのだが、どうもそのテーブルの上には、子どもが一人いるようだった。

 仮面のやつらの影でよく見えなかったが、まだ小さい子どもがその上に寝かされていた。そいつは、なんとかそこから逃れようともがいていたが、縄か何かで手足を縛られているのか、逃げ出すことができないようであった。ふと自分も同じように手足を縄で縛られているのに気づいた。叫び声をあげようとしたが、口にも猿ぐつわをはめられていたと見えて、うーうーと唸るばかりで、声にならなかった。

 

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(五十四)託されたもの

 目を開けると天井が見えた。あたりを見渡したが、そこは見たこともない部屋で、リュウは自分がベッドの上に寝ているのをようやく知った。体が鉛のように重かった。体を動かそうとしたが力が入らず、リュウは諦めたように頭を枕に沈めた。

 いきなり扉が開いて誰だか知らない女が部屋の中に入ってきた。だがその女はリュウが目を覚ましていることに気づくと、びっくりしたような顔をしてすぐに出ていってしまった。

 リュウはなんで自分がここにいるのか思い出そうとした。確か、自分はイラルの勇者イロンシッドと戦っていたはずだった。危うく死にかけたがなんとか相手の肩を貫いたはずだった。膝をついたイロンシッドは負けを認め、首を刎ねろとリュウに言った。リュウは剣を振り上げた。だが突然、胸に衝撃があったかと思うと、頭が痺れたように真っ暗になった。リュウが覚えているのはそこまでだった。

 

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(五十五)たくらみ

 レインハルトがイラル軍を打ち破ったという知らせは既にウルクにも届いており、街中が沸き立っていた。人々は口々にレインハルトの名を讃え、国境の方を向いて祈りを捧げた。それはまるで神を讃えるごとくですらあった。

 そんな中、王宮にあってマナセだけが一人憂鬱な時を過ごしていた。二万の大軍であればレインハルトとても適うはずがない、あの生意気なレインハルトも無様な死に様を晒すことになるだろうとほくそ笑んでいたのに、いまやレインハルトの名は神にも匹敵せんばかりに高まり、国王であるマナセのことなどすっかり忘れ去られていた。

 

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(五十六)神を殺すものたち

 アインは可愛がっているエルに餌を与えていた。
 国王になってもこれだけはやめる気はないようで、手ずからぶら下げてきた肉を地面に置くと、近寄ってきたエルの顔を優しくなでた。ある意味アインにとっては恐れて誰も入ってくることのない、このエルと過ごすひと時が、唯一、素の自分になれる貴重なひと時なのかもしれなかった。

 だが最近、この貴重なひと時が別な目的のために利用されるようになっていた。エルを恐れぬもう一人の男、アインの腹心となった司法大臣のジュダが今日も少し離れたところに立ち、アインとエルの様子を眺めていたが、アインが自身よりはるかに大きい虎に肉を与えるのを見て感嘆するように言った。

 

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第十二章

(五十七)罠

「マッテオ、じゃあ、出かけてくるね!」

「リオラ、今日もいくのか? そんなに慌てなくたって、レインハルトたちはそのうち帰ってくるさ」

「だって、ここでじっと待っているなんて耐えられないわ! レインハルトもリュウもきっと疲れているに違いないから、早く、美味しいお茶を飲ませてあげたいの」

 

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(五十八)父親

「おい、ブラム、お前はいったい全体覚える気があるのか! そんなこっちゃ、お前は一生、俺のとこで冷や飯食う羽目になるぞ!」

 相変らず、マッテオの大きい声が表通りにまで響き渡っていた。その声を聞いたレインハルトとリュウは苦笑いしながら、それでも何かほっとするような思いで店に入っていった。

「マッテオ、今帰ったぞ!」

 

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(五十九)それぞれの想い

 急に目の前が開け、小さな小屋が見えてきた。カーテンは閉められていたが、中で明かりが灯されているのがカーテン越しに分かった。レインハルトはゆっくりと小屋に近づき、扉を開けた。そして何の恐れもなく小屋の中に入っていった。

 部屋の中には年老いた老婆とちょび髭を生やした執事のような男と数人の兵士が立っていた。

「ようこそ、いらっしゃいました。レインハルト様」ちょび髭を生やした男は、いかにも芝居がかったようにレインハルトに声をかけた。レインハルトはその男を覚えていた。その男はジュダの執事、アモンであった。

 

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(六十)乱入

 豪奢な部屋の一室で、ジュダはゆっくりとブランディを飲みながら、アモンの報告を聞いていた。

「……そうか。レインハルトは承知したか」ジュダがつぶやくように言った。

「はい。いささか拍子抜けするほど、あっさりと承諾しました」アモンが囁くように言った。

 

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(六十一)対峙

 かつてマナセが大公時代に臣下と謁見した場所だけあって、その場は広く、絢爛豪華極まりなかった。だがそこにいるのはひじ掛けに肘をついて軽く頭を傾げながら、優雅にこちらを眺めて座っている金髪の男とさきほどの執事だけであった。

 リュウは金髪の男の方に向かって、ゆっくりと進んでいった。だが金髪の男はリュウを恐れる様子はまったくなく、まるで楽しんでいるようにその動きを見ていた。あまりに無防備な様子を逆に警戒したリュウは高座の一歩前で止まった。そして、人質がいることなど、まるで見えていないかのように微笑みを浮かべる金髪の男に向かって声を掛けた。

 

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第十三章

(六十二)嘲り

 翌朝、憔悴しきった顔でぼんやりと庭先を眺めていたマッテオのもとに、弟子のブラムが血相を変えて駆け込んできた。

「お、親方! 大変です! レインハルトさんが、レインハルトさんが!」

「レインハルトが戻ってきたのか!」マッテオはレインハルトがリオラを連れて帰ってきたのだと思い、うれしそうに腰を上げた。

「い、いや、そうじゃなくて……レインハルトさんが大変なことに……高札があちこちに立てられて、レインハルトさんが背教の罪で処刑されると……」

 

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(六十三)戦士

 店に戻ってきたマッテオは、店の扉を締め切ると、弟子たちに集まるように言った。そして、みんなの顔を見ると、ゆっくりと話し始めた。

「ブラム、レビ、メースよ。俺は良い師匠ではなかったが、お前たちは今日まで頑張って俺についてきてくれた。もう俺がお前たちに教えることは何もない、お前たちはもう一人前の立派な鍛冶職人だ。これからはみんな一人でやっていけるだろう。だから、お前たちは今日で俺のもとを去るがいい」

 

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(六十四)磔

 リオラはうっすらと目をあけた。天井が見えたが部屋は薄暗かった。リオラは周りを見渡したが、そこは見知らぬ部屋だった。ベッド以外なにもなく、窓もテーブルも何もなかった。

 リオラはどうして自分がこんなところにいるのか思い出そうとした。レインハルトとリュウを迎えに街道に出向いたのだった。そこで今にも倒れそうな老婆に会い、その人の家まで送ってあげた。部屋の中に入り、窓をあけようとした……覚えているのはそこまでだった。

 

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(六十五)聖騎士

 ラッパが響き渡った。
 その途端、群衆の騒ぎは一瞬にして静まった。そして、大きな声が轟いた。

「アイン国王の御出ましてある」

 その声とともに王宮の中から、威風に満ち、花のように美しき若き王が現れた。それを見た群衆の間から天を突くような喝采の声がうなりのように沸き起こった。アインはその声を当然の如く受け流しながら、静かに一番高い座についた。その横にはあのジュダが悠然と控えていた。ジュダはアインが王座に座るのを見ると、ゆっくりと口を開いた。

 

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(六十六)処刑

 広場は静まり返っていた。マッテオの壮絶な死は、まるで祭りを楽しむかのように浮かれ騒いでいたウルクの民の心に深刻な打撃を与えた。誰も彼も、自分たちがマッテオにしたことに言い知れぬ後味の悪さを感じていた。

 ジュダは、人の心の機微を測ることに長けていた。ジュダはこの雰囲気の中でさらにレインハルトに向かって石を投げさせれば、ウルクの民衆はそのことに嫌悪を感じ、その嫌悪の念がそれを命じる自分たちに反感として跳ね返ってくることを一瞬にして悟った。ジュダは利口であった。ジュダは民に向かって、こう語り始めた。

 

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(六十七)親子

 処刑人は両足を切り落とすと、そのまま去っていった。それと入れ替わるように一人の少年が王宮から出てきた。リュウだった。リュウは胡散臭げな眼で群衆たちを見渡すと、ずかずかと広間の方に向かっていった。そして、剣を抜いて、十字架に架けられた男に近づいた。その男を切り殺すつもりだった。大事なリオラを誘拐した大悪人、自分の手で地獄に送り込んでやるつもりだった。だが、その男に近づくにつれて、剣を持つリュウの手は震えてきた。

 リュウは自分の目が信じられなかった。十字架に架けられ両足を切られた男は、リュウがよく知っている男だった。リュウが心から尊敬し、父とも慕う男だった。リュウはその男の前に立つと、震える手で血にまみれた肌を触った。

 

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(六十八)残されたものたちの決意

 雨はまだ降り続いていたが、いつの間にか雷鳴は止み、今は糸のように細い雨が静かに降っていた。それは天が涙しているような、あるいは大地に染まった血を洗い流しているかのようでもあった。あれだけいた群衆はいつの間にか誰一人いなくなっていた。アインやジュダたちの姿も今はなかった。その中でリュウはたった一人、雨に濡れながら広間に佇んでいた。リュウの前には数え切れないほどの矢を浴びた男が横たわっていた。それは千人力のマッテオだった。リュウはマッテオの脇にかがみこんでその顔を見た。マッテオの顔もまたレインハルトと同じく穏やかな笑みを湛えて、まるで眠っているようですらあった。

――おい、リュウ。今のは完全にやられたよ。真剣だったら俺は死んでいたな。全く、お前ってやつは、あっという間に強くなっていきやがる。こりゃ、レインハルトもうかうかしてられないな――

 

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読者さまからいただいたコメント

 

ここからは、これをカクヨムで投稿した時にいただいた読者様からのたくさんのレビューやコメントの一部を紹介させていただきます。

 

 誇張ではなく、今まで読んだweb小説の中で一番読みやすい文章、一番読みやすい小説です。私は「完読」が苦手な方で、商業小説の方でも途中でやめることはありますし、いわんやweb小説となると最後まで読めた小説というのはほとんどありません。 でもこの小説は、読み続けることができます。一体なぜこれ程読みやすいのか。わかりませんw むしろ重厚なんです。改行が多いわけでもなく、一人称でもなく、地の文もしっかりしていて、重厚なのです。なのに恐ろしく読みやすい。多分、無駄が一切ないのでしょうね。そして内容ですが、かなりダークです。主人公含めて暴力的な登場人物がたくさん出て来ます。ちょっと次のページを捲るのが怖いような。その意味でホラー小説的な感覚もあります。怖いなあと思いつつも、引き込み力がすごいので次を読んでしまいます。(Nさん)

 

 この『物語』に出逢ってしまったとき、私がまず思ったのは『カクヨム』って凄い!という、ちょっとピントがずれた驚きでした。いや、でもまさか、こんなにも凄い『物語』に出逢えるとは思ってもいなかったので。古典的なスタイルをそのまま引き継いでいるというくらいに、正統的な物語展開。舞台設定や人物像も、古えから続いてきたような伝統的なものを感じます。でも、決して使い古されたような陳腐さはありません。むしろ、脈々と続いてきた『物語』の持つ力に、びしびしと圧倒されてしまいます。もう、とにかく夢中になって読んでしまいます。魅惑的な世界観。魅力的な人物像。壮大なテーマ。これぞ本物の『物語』。もう、ワクワクが止まりません。(Jさん)

 

 面白い。更新したらすぐ読みたくなる。序章のリバイアサンの厳かな雰囲気のまま、ストーリーも恐るべき真実とともに進行していきます。腐りきった世界、そこに現れた変化の兆しは果たして悪魔か、勇者か? 神は世界を見放されたのか? いや、そうではない。リバイアサンが……。話題作を続々と公開し続ける作者様の、渾身の一作。★とコメントが凄まじい速さでついていくところからもリピーターの多さが伺えます。是非、この世界の扉を開けてみてください、リバイアサンと対峙する勇気がおありなら……。(Kさん)

 

 旧約聖書で登場するリバイアサンをテーマにしてます。作者様の小説で『ツァラトゥストラはかくか語りき』という伝説の作品があります。これを読んだとき、「なんてすごい作品なんだ」と思いました。 それに匹敵するのが本作『リバイアサン』です。文体も内容も神々しいです。残酷さも時にはあり、それすら神の如くに感じられます。リュウをはじめとする魅力的なキャラクター。印象的なセリフ。神にまつわる深い考察。今後の展開が楽しみにです!(Sさん)

 

 文字ぎっしりです。でも、そこにはmessageの魂が散りばめられており。あたかも導かれるように、気が付けば最新話まで読み続けることができました。この熱量は、なんなのだろうと考えつつも、容赦のないすっぱりした文体、聖書をベースとした揺るぎない残酷さとしたたかさ、時折顔を出す、ちょっとした人の息遣いや、神への様々な考え方。神はいるのか。しかし、神の士師なる存在が、神はいるのだと訴えて来ます。リバイアサンという謎の言葉、片鱗があるのかと最新話まで読みましたが、もうこれはレビューで良いと判断しました。重厚です。残酷です。しかし、それはちゃんと「人間」に基づいた揺るがない本質とも言えるでしょう。不思議な話ですが、このお話を読んで、ちょっと人って愛おしいな、とも思いました。聖書という格調高き世界観に忠実に、真っ向から挑んだ本作。純文学ではありますが、ダークファンタジー好きにはたまらない魅力があります。時にこういった、底の見えないファンタジーも悪くないかも知れません。そこには、神を信じ、信じない、神だけを信じる、神を追い求める生きた人間たちが描かれています。一度、お立ち寄りください。(Mさん)

 

 硬質で上質なダークファンタジー小説。妥協のないシリアスさです。情け容赦ない展開や設定に重苦しい気持ちになることもあるのですが、どんどん引きこまれていってしまう。この重厚さは、本当に芸術的です。そして、重いだけでなくキャラひとりひとりの人生というものについても、しっかりと描かれていて深い。筆力が本当に素晴らしいと思います。(Aさん)

 

 旧約聖書の引用から始まり、グロテスクなシーンのあるプロローグ、乱暴な口調の主人公……と、もしかしたら出だしは結構好き嫌いの分かれてしまう作品かもしれません。私も最初は主人公以外の登場人物の中に苦手な言動をするキャラクターがいて少し「うっ」となりましたが、それでも読み進めていくと気付いた時には続きが気になってしょうがなくなっていました。終始淡々とした地の文で描かれていますが、かえってそれがこの物語のダークファンタジーとしての雰囲気を一層引き立てています。この作品を読む度に余計な装飾はいらないんだと感心させられますが、いざ自分でやろうとすると何かおかしくなるのでこれはこの作者様にしかできない表現だと思っています。(Hさん)

 

 聖書を基点にした世界観で、残酷で醜悪な現実が描かれています。でも、そんな世界の中でも誇り高く生きる人がいる。読者としても、そんな生き方を真似できるのかと問われたら、答えに詰まるほど彼らが素晴らしい人間に見えます。主人公リュウは、この世界がどのように見えているのか、どう生きていくのか。神の名の元に動く人々と世界の中で、どんなあゆみを見せるのか。目を逸らしている暇などありません。厚みのある文章で描かれる物語の行き着く先がどんなものか、是非見届けてほしいです。(Hさん)

 

 骨太のダーク・ファンタジーと言ったカンジですね。ダーク・ヒーローものは大好きなのでこちらも腰を据えて読まさせて戴きます。兎に角主人公のキャラが立っているコトと、彼のセリフだけで作品が成立してしまうくらい引き込まれるので、ストーリーにカタルシスがありますね。文体もきっちり「書き溜め」をし、何度も「推敲」をして磨き(ブラッシュ・アップ)を掛けているのが解るのでぎっちり埋まった行間が非常に読み易く、尚且つ完成度が高いです。どれとは言いませんがただ「毎日更新だけを目的」にして、書き溜めも推敲もロクにせずにうへぁ~…('A`)となる作品も多いので久しぶりのヒットという感じですね。応援しています、頑張ってください!(Sさん)

 

 聖書を基点にした世界観で、残酷で醜悪な現実が描かれています。でも、そんな世界の中でも誇り高く生きる人がいる。読者としても、そんな生き方を真似できるのかと問われたら、答えに詰まるほど彼らが素晴らしい人間に見えます。 主人公リュウは、この世界がどのように見えているのか、どう生きていくのか。神の名の元に動く人々と世界の中で、どんなあゆみを見せるのか。目を逸らしている暇などありません。厚みのある文章で描かれる物語の行き着く先がどんなものか、是非見届けてほしいです。(Hさん)

 

 

あとがき

 この物語には、たくさんの方から身に余るレビューと数えきれないほどのコメントをいただきました。今回それらを改めて読んでいるうちに、この物語が本当に多くの人に愛されていたんだなとつくづく感じました。

 最初にも書きましたが、この作品はまだ完結しておりません。おそらく、100万字を超える大長編になるであろうと思っています。

 プロ作家でもないのにおこがましいですが、僕はこの物語を書き終えた時、小説を書くということに一つの区切りをつけられるんじゃないかと思っています。それほどにこの物語には愛着があるし、ある意味、僕が一番書きたいテーマと僕の想いが詰まった作品になっています。

 ですが、書き終えるとしてそれはいったいいつになるのか、もしかすると、レオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザのように、一生手元に置いて、書き続けていくことになるのかもしれません。

 そんな物語ですので、ここまで読んでいただいた方で、早く、二部を投稿しろと思う方についても、長い目で見ていただけますと幸いです。

 

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