暖炉の灯りのみが唯一の光源である薄暗い部屋に奇妙な男たちが六人ほど集まっていた。男たちと言ったが、体格から察するに男たちであろうと言うべきか。なぜなら、彼らはみな仮面をつけていたからであった。山羊の仮面をつけた男がいた。馬の仮面をつけた男がいた。象の仮面をつけた男がいた。蛇の仮面をつけた男がいた。鳥の仮面をつけた男がいた。そして、道化の仮面をつけた男がいた。
仮面の男たちは部屋に設えられた祭壇に向かって、なにやら低い声で詠唱していた。古の言葉なのか、それとも何かの呪文なのか、ただときおりダイモンという言葉だけが、はっきりと堂内に響いた。
ダイモンを称えよ。
ダイモンを求めよ。
そんなようなことを言っているようであった。
彼らが熱心に詠唱を捧げる祭壇には角を生やした悪魔のごとき彫像が据えられていた。だがその顔はあくまでも美しく、贅肉一つない完璧な肉体を有していた。暖炉のゆらめく灯りを浴びて、浮き出る筋肉がてらてらと光り、生きているかのように生々しく、その彫像は屹立していた。
不意に詠唱が止んだ。
それが合図であるかのように、仮面の男たちは彫像の視線の先にある部屋の中央に据えられたテーブルを取り囲むように並んだ。その大きなテーブルは鏡のように磨き上げられた御影石でできていたが、その上に置かれていたのは果物やワインではなかった。なんとその上には、まだ十歳前後と思しき少年が全裸で鎖につながれて、仰向けに寝かされていた。
少年は恐怖が高じたためなのか、それとも生来、唖であるのか、ただ、ああ、ああとうなるばかりで言葉を発することができず、自分を見下ろす異様な仮面をかぶった男たちを見上げて、癲癇患者のようにただぶるぶると震えていた。
ダイモンを称えよ。
ダイモンに捧げよ。
詠唱が続く中、道化の仮面をつけた男が後ろに置かれた机から白布を手に取って、少年の上に覆いかぶせた。その白布には神を暗喩するシンボルである▲が描かれていた。白布にすっぽりと覆われた少年は布を剥ぎとろうと何度も身をよじったため、まるで▲が身悶えしているようにも見えた。
ダイモンを称えよ。
ダイモンに捧げよ。
詠唱は徐々に高まり、次第にこの暗く大きな部屋の中で反響し始めた。まるで何百人もの男たちが唱和しているようであった。
ダイモンを称えよ。
ダイモンに捧げよ。
重々しい詠唱が朗々と響く中、道化の仮面をつけた男が机の上から短刀を取り上げた。その短刀は、暖炉の灯にゆらめいてあやしく光った。
ダイモンを称えよ。
ダイモンに捧げよ。
ダイモンに捧げよ!
詠唱が最高潮に達したとき、道化の仮面をつけた男は短刀を大きく振りかざし、的確に▲の中心を突き刺した。そこは心臓の真上であったと見えて、短刀が根元まで突き刺さった瞬間、少年の体は一瞬にして強張り、しばらく断末魔のごとくにぴくぴくと震えていたがそれも長くは続かなかった。
少年は息絶えた。
それを見極めたかのように仮面の男が短刀から手を放すと、その周りからどくどくと血が溢れだし、六芒星が描かれた白布はみるみる血に染まっていった。
仮面の男たちはしばらくその様子をじっと眺めていたが、六芒星がすっかり血に染まるのを見るとゆっくりと近づき、血に染まった白布ごと少年の死体を担ぎ上げ、室内を照らしていた大きな暖炉に無造作に投げ入れた。
あっという間に白布は焼け落ち、その下の少年の姿が露わになったが、まだ幼さを残したその小さな体もすぐに炎に包まれ、髪がちりちりと焦げ、肉がやける臭いが室内に漂ってきた。仮面の男たちはいつの間にか部屋から去っていたが、暖炉の炎は消えることなく、いよいよ火勢を増していた。それは、まるで飢えた狼が久しぶりの獲物を貪り喰らっているかのようであった。祭壇に据えられた彫像は、その様子を冷たい目でじっと見つめていた。