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【哲学ミステリー小説】『ツァラトゥストラはかく語りき』(二十一)

 翌日の各紙の朝刊はどれもこれもツァラトゥストラの文字がでかでかと躍っていた。ツァラトゥストラの箴言と題された昨日の声明文の全文が掲載され、これまでの事件の経緯も事細かに記述されていた。それだけにとどまらず、ニーチェの思想や『ツァラトゥストラはかく語りき』に関する詳細な解説や論評も長々と書きたてられていた。

 各局のニュース番組では西洋哲学を専攻している教授や研究者たちが次々と登場し、我こそツァラトゥストラの真の理解者であるかのように得意げに自説をひけらかし、警察OBや心理学者たちは犯人像について喧々諤々の議論を繰り広げていた。

 だが、それ以上にすさまじいのはインターネットであった。ツァラトゥストラの検索回数は翌日には既に一千万回を超え、ツァラトゥストラというキーワードで検索されるサイトは次々にアクセス不能に陥った。掲示板やSNSではツァラトゥストラに関するコメントが洪水のように溢れたが、ツァラトゥストラに共感するものが圧倒的に多く犯罪を戒める理性的なコメントは嘲笑され、濁流のような賛美の声に飲み込まれた。ネット空間はツァラトゥストラ一色に染まった感があった。

 

『ツァラトゥストラの箴言 第三十四章』

1――偉大なるツァラトゥストラを語るための掲示板です。意味不明な環虫やろうや、くだらない芋虫やろうは無視しましょう。

961――ツァラトゥストラの思想に感動した。ツァラトゥストラをみんなで称えよう!

962――くだらない連中は全部死んでくれ

963――お前らのせられすぎ。頭冷やせ!

964――俺すでに超人!

965――ツァラトゥストラの言うことは理解できる。でも、殺人はまずいだろ

966――鈴木殺したい

967――通報します

968――ツァラトゥストラ様、愛してます

969――こいつら絶対病院行った方がいい

970――そういうお前が病院行け!

971――この世の中矛盾だらけ。まじめに生きるのがバカバカしい

972――昨日、会社を首になりました。お金ください

973――ツァラトゥストラはおかしい。社会には真面目に頑張ってる人間もたくさんいる。こいつはそういう人たちを一切見てない

974――ツァラトゥストラが言ってるのは、総体として人間のレベルが下がっていて、間違いなくこの社会が腐敗してきてるってことなんだよ! 頑張ってる人が一人でもいれば、この世界は正しいなんてのは、お前のマスターベーション

975――そういうこと

976――強いやつが好き放題できたら社会的弱者はどうなる。もっと真面目に考えろ

977―社会的弱者って誰のこと? 

978――選挙なんかやめて、賢いやつが指導者になった方がいいんだよ

979――ツァラトゥストラの次の偉業を見たいです!

980――暴力は絶対に反対です。平和は絶対に守らなければならないと思います

981――戦うことと暴力は全然違うぞ

982――こういうやつは、自分がやばい状況の時には平気で権力にすがるタイプ

983――お前らみたいなのがいるから、戦争がなくならないんだよ。戦争の悲惨さを知らないくせに平気で戦えとかいう。そんなに戦いたいなら、お前らが戦ってこい!

984――お前は戦争を知ってるのかよ

985――口先だけで理想いうのほんとやめてくれる、こちらが戦争したくなくても、相手が攻めてくれば戦争になるんだけど

986――俺は大事な人を守るためなら戦うよ

987――犯人、同じ大学のやつに決まってるだろ。早く捕まえろ。警察ってほんと無能

988――内藤って教授のゼミの受講生、たった十二人らしいぞ

989――カルトの集まりって評判

990――ニーチェ教ですか!

991――捕まらないほうに百万円

992――捕まったら絶対払えよ!

993――その金ください

994――私はツァラトゥストラ。お前たちの意見は卑小すぎる

995――お前だれ

996――明日事件を起こしたいと思います

997――なんかあったら通報します

998――やるんなら派手にやってね

999――ツァラトゥストラは正しい。俺は彼の弟子として今日から行動を開始します
1000――生きるのって馬鹿くさいってずっと思ってきたけど、生れて始めて何かしたいって思った

1001――このスレッドは1000を超えました。新しいスレッドを立ててください。

 

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