面白い小説を書きたいだけなんだ

素人作家がどこまで面白い小説を書くことができるか

【平安を舞台にした和風ファンタジー】『異形の国』 (二十一)

「季武、よくやった」頼光は鬼を倒した季武に声を掛けた。 

「たいしたことはございません」季武は頼光の前に膝まづいた。 

「いや、鬼とは易々と倒せるものではない。容易く倒すことができたのは鬼が弱いからではなく、そちが人並外れた力を持っておった証拠だ。季武、今後も頼みにしておるぞ」 

「ありがたきお言葉、この季武、これからも殿のために一命を賭してお仕えする所存」 

 頼光は季武の言葉を聞くと満足げに頷いた。すると、脇から金時が出てきて不満顔で言った。 

「おい、季武! お前ばっかり殿から褒めてもらってずるいじゃねえか」 

「金時、お前は相撲大会の折に我らを差し置いて綱殿と立ち会うたではないか。これであいこというやつじゃ」季武が笑いながら言った。 

「そりゃねえよ。俺はあいつにこてんぱんにのされたんだぜ。これじゃ俺だけ弱いって評判になるじゃねえか」 

「そんなに心配するな。さきほどの鬼が言うことにはもっと強い鬼がたくさんいるようだ。そのうち嫌でも戦わざるをえなくなるさ」 

「季武の言う通りだ。金時よ、そんなに焦るな。お前の力を発揮するときがすぐにやってこよう」頼光も微笑みながら言った。 

「それじゃ、そんときは俺に任せてくれよ! 約束したぜ、殿!」 

「分かった、分かった。まったくお前ときたら、鬼退治を喧嘩としか思っておらん」頼光がそう言うと、皆、大笑いした。 

 ひとしきり笑いが収まると、季武は少し真面目な顔になって頼光に言った。 

「殿、一つだけ気になることがございます。この鬼ども、ただの妖の集まりなどではなく、首領を頭に統率された仕組みをもっておるような言いぶりでございました」 

「うむ、確か四人の童子を呼び寄せたと言っておったな。そうすると茨木童子のごとき屈強な鬼が他にもおるということか」 

「かもしれません、もしそうであればちと面倒なことになるかと」季武がそう言うと横から吉平が声を掛けてきた。 

「昨晩、我が父、晴明とともに星占を行いましたところ、大江山の方角に尋常に非ざる四つの星が集まりつつあるのを診ました。おそらくそれこそその四人の童子のことでございましょう。季武どのの言われる通り、茨木童子にも匹敵するような鬼が四人も加わるとなると、少々やっかいなことになりましょう。今日この場に鬼が一匹しか現れなかったのも鬼たちの間に統制が敷かれ始めたのやもしれません」 

「つまり、大江山に棲む鬼の首領はこの京に攻め入るための準備を着々と備え始めているということか」頼光は低い声でつぶやいた。 

 吉平は軽く頷いたが、急にあることに思い至り、慌てて頼光の顔を見た。 

「頼光殿、我らは敵を嵌めたつもりでしたが、嵌められたのは我らであったのかもしれません! 我らがここに出張ったことでお屋敷の方は手薄になっております。もし敵の狙いがもともとそこであったとすると」 

 頼光は吉平の慌てた顔を見ると迷うことなく馬に飛び乗り、大声で叫んだ。 

「皆の者、すぐさま屋敷に戻るのだ!」 

 



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