「おい金時! お前、俺がいない間に抜け駆けして手柄を立てたそうじゃねえか。ったく、なんて運のいい野郎だ」
背中の傷もすっかり癒えた貞光がそう言って金時の肩をびたびたと叩いた。
「いや、いつかはやる男だと思っていたが、まさか四天王と呼ばれる鬼の一人を倒してしまうとはな。こりゃ大手柄だぞ!」
季武もそう言って、金時の背中をばしっと思いっきり叩いた。
「おいおめえら痛いって! 昨日の今日で、まだこっちの腕は動かせねえんだから、少しは手加減しろって」
「いや、勘弁ならん!」そう言うと貞光は金時の顔を睨みつけた。
「……おまえ、桔梗殿に朝まで付きっ切りで看病してもらったらしいじゃねえか」
「いや、ありゃあいつが勝手にしたことで、別に俺が頼んだわけじゃねえって」金時が言いがかりだと言わんばかりに首を振った。
「……おい金時……お前、手を出してはおらんだろうな」
「そ、そんなことあるわけねえだろ! 鬼と戦って、こっちも危うく手を一本失うとこだったんだぞ。そんな元気があるわけねえだろ」
「元気があったら、押し倒したというのか!」
「そういうことじゃねえ。だいたい、俺はあんな山猫みたいな女は好みじゃねえってあいつにも……」
「金時、てめえ、桔梗殿に向かって山猫などと愚弄したのか!」貞光が血相駆けて立ち上がった。
「そ、そうじゃねえって、そんなことあいつに言えるわけねえだろ……い、いや、あいつもなかなか可愛いところがある――うん、そう言えば、確かに可愛いところもあった」
「やはり、お前も桔梗殿に気があるんだな!」貞光の顔はさらに真っ赤になった。
二人の様子を呆れたように見ていた季武だったが、まあまあと口を挟んだ。
「男が女子を好きになって何が悪い。荒太郎、見苦しいぞ。お前も男なら正々堂々と勝負せい!」
「なんだと、この野郎! てめえに言われなくたってそんなことは分かってんだよ! 俺は、てめえみたいな朴念仁とは違って、女心は人一倍分かってんだ!」
顔を真っ赤にした貞光は今度は季武に向かって怒鳴り始めたが、季武はそんな貞光に向かって憐れむように言った。
「だがお前はガキの時分、いつも女に振られていたからなあ」
「こら、鬼太郎! てめえこの野郎、昔のことをばらしやがって!」
「おい、喧嘩すんなら他所でやってくれ。それにお前だって癒えたばっかりなんだから、そんなに熱くなると、また傷口が開くぞ」
「てめえが熱くさせてんだろうが!」
「お前は血の気が多くていかん。だから、すぐ女にのぼせ上ってしまうのだ。もう少し血を抜いたほうがいいかもしれんな」
「なんだと、この野郎! もう勘弁ならねえ、てめえら、みんな表に出ろ!」
まるで戦場のような騒ぎの中、いきなり障子が開いた。今にも取っ組み合いをしようかという三人だったが、そちらを見るとそこには綱が立っていた。
「どうも元気が有り余っているようだな。だが、ちょうどよい。いよいよ鬼征伐に向かうことが決まったので、各々、しっかり準備をしておけとの殿のご命令だ」
綱はそれだけ言うとぱたりと障子を閉めて何事もなかったように去っていった。部屋にいた三人はその様子をぽかんと口を開けて眺めていた。
