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【平安を舞台にした和風ファンタジー】『異形の国』 (三十五)

 頼光の前に天下無双の男たちが揃っていた。

 茨木童子という恐るべき鬼の腕を切り落とし、今や天下一と噂される渡辺綱、相撲大会において鮫太郎という悪漢をたった一発の張り手で吹っ飛ばし、一条戻り橋ではそこに現れた鬼の首をあっさりとねじり切った卜部季武、茨木童子率いる鬼どもとの死闘において大江山四天王の一人金熊童子に瀕死の深手を負わせた碓井貞光、相撲大会では渡辺綱をあわやのところまで追い詰め、先日は大江山四天王の一人熊童子をたった一人で倒した坂田金時。そして、その男たちとは少し離れたところに安倍晴明の嫡子であり、これまた陰陽道の達人である安倍吉平と藤原秀郷の家人として長く秀郷の傍に仕え、将門の乱を始め幾多の戦場で武勲をあげてきた波多野五平の二人が静かに座っていた。 

 頼光は目の前にいる男たちを見渡し満足げに一つ頷くと、大きな声で語りだした。 

「皆のもの、いよいよ鬼どもを倒す時がきた。彼奴等は大江山を根城とし、いまだ正体の知れぬ首領を頭に、これまでこの都を大いに騒がせてきた。彼奴等をこのまま野放しにしておけば、都のものは生業も立ちいかず、安心して眠ることさえできぬ。それどころか、この国の存亡にも関わる仕儀にもなろう。なればこそ畏れ多くも帝は我らに鬼討伐を御下命なされたのだ。我らの肩にこの国の行く末がかかっているのだ。これはまさに戦だ。この国に生まれた男であるからには絶対に引けぬ戦であり、絶対に勝たねばならぬ戦なのだ!」そう語る頼光の目は燃えるようであったが、それを聞く男たちの目もまた激しく燃え盛っていた。 

「敵の首領は大江山にいる。その首領を倒さねば戦は終わらぬ。なればこそ我らは大江山に攻め込むのだ。大江山は敵の城であり、どんな仕掛けがあるのやら計り知れん。つまり我らは死地に飛び込む。だがその心意気なくして、いかであの鬼たち勝ち得ようか。あえて必死の地に赴き、生死の狭間の中で己の生をつかみ取るのだ。その覚悟こそが必勝を期すべき我らにとって何よりも大切なことなのだ!」頼光の怒声にも似た声が、その場にいるものの胃の腑を震わせた。 

「敵はきっと、我らが大軍を引き連れて攻め込んでくると思っているに違いない。だが我らはその裏をかく。周りには次の満月の日をもって攻め込むと言いふらすが、その実は明後日の望月の日の夜更けに、この場にいるものだけでここを発つ。吉平殿には我らが策を鬼に見破られぬようわしの代わりにここに残ってもらい、この屋敷に目隠しの陣を敷いてもらう。さすればいかな鬼とても我らの動きを見誤るに違いない。そこが付け目だ!」そう言うと頼光は、季武と金時を見つめた。 

「季武、金時は俺とともに明後日の亥の刻に山伏の姿に身を変えて、大江山に向かう!」 

 季武と金時が力強く頷くのを見た頼光は今度は綱と貞光、そして五平に目を向けた。 

「綱と貞光、そして五平の三人は、我らが出発する前日に出発するのだ。そして裏街道を通って、背後から大江山に迫れ。落ち合うのは三日月の日の亥の刻、大江山の登り口だ」頼光の言葉に綱と貞光がぐいと頷いた。頼光はそこまで言うと立ち上がった。そしてその場にいる全てのものを見渡すと、烈火のごとく言い放った。 

「よいか、敵の首領の首を取ることだけを考えよ。もし俺が手負いの身となったら、俺ののことなど置いていけ! 俺の屍を乗り越えてでも、前に進むのだ! 天下一の名が欲しくば、己の手で掴み取れ! 敵の首領を倒し、この都に戻ってきたものこそ、天下一の男だ!」そう叫ぶ頼光もまた最強を目指す一人の男であった。 

 



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