「なるほど、これは類まれな美形じゃ。貞光と金時が惚れるわけだ」
季武がそう言うと、一緒に酒を飲んでいた金時と貞光がぶっと吹き出した。
「て、てめえ! いきなり、なに言ってやがる!」貞光が顔を真っ赤にして立ち上がった。
「おい季武、俺がいつそんなことを言った! お、おい、桔梗、俺はそんなことはちっとも思ってねえぞ」
金時が慌てたように、ちょうど酒の肴を運んできた桔梗に向かってくどくどと言い訳を始めたが、桔梗はすました顔で二人を眺めた。
「なんだてめえら、やっぱり俺に惚れてんのか。まあ分かっちゃいたけどな。でもなあ、俺は天下一って男じゃなきゃ、相手にしねえと決めてんだ。まあ大江山の鬼どもを退治してきたら考えてやってもいいけどな」
「おう、そうか! 天下一の男というのであれば、この碓井貞光以外に誰がいようぞ。桔梗殿、安心なされい、あんな鬼ども俺が一人残らず片付けてやる」貞光が満面に笑みを浮かべて、うれしそうに言った。
「そう言えば、今度の満月の日に大江山の鬼退治に向かうらしいな……」桔梗は少しだけ顔を曇らせて、三人を見た。
「お、おう、今度の満月にな、攻めかかることになってる。貞光一人じゃ、荷が重いが、なんでも五千の兵で攻めるってことだ。そんだけいりゃ、負けっこねえだろ。なあ季武」
「そうさな、しかもそのうちには自分が天下一だと思ってるやつが仰山いるようだから、鬼どももたまったものではあるまい」季武はそう言うとにやりと笑った。
そのやりとりをじっと見つめていた桔梗だったが、ようやくほっとしたように笑った。
「お前らが相手じゃ、鬼どももげんなりするだろうな。おいてめえら、鬼ども全員やっつけてこい。ただしな、死んじまったら、ただじゃおかねえからな!」
「分かってるって、今日の馳走も出世払いでいいんだろ」金時もにっと笑うと調理場で魚を捌いている親父に向かって叫んだ。すると奥の方から親父が顔をだしてきて、金時に向かって叫んだ。
「おい金太郎! てめえにゃ、これまでただで飯食わせてきたんだからな。ちっとは偉くなって返してもらわなきゃ割に合わねえって奴だ。それにてめえのおっかさんも、てめえが立派になって足柄山に迎えに来るのを待ってんだからな、それを忘れんじゃねえぞ」
「分かってるって。この一件が終わったら、一度、おっかさんのところに戻って、この都に連れてきてやろうと思ってんだ。俺が武士になったなんて言ったらびっくりするだろうなあ」金時がにこやかに笑うと、相槌を打つように貞光も言った。
「おう、そんときは俺も付き合ってやるぜ。俺もしばらく帰ってねえが、田舎の親父とお袋も、えらいびっくりするだろうよ」
「そういうことなら、俺も一緒だ。故郷に錦を飾らんとな」季武も笑いながら言った。
「よしっ、じゃあここいらで、みんなで一緒に杯を挙げようじゃねえか。親父、桔梗も来い!」そういうと金時は、みんなの杯に酒をなみなみと注いだ。
「みんな準備はいいな。よしっいいか、鬼なんかに負けてたら、天下一だなんて恥ずかしくて言えねえからな! 分かってるなみんな、俺たちが一番強えぞ!」
金時が高らかにそう言うと、貞光も季武も桔梗も親父も杯を高く掲げた。誰も皆、様々な思いを胸に秘めていた。誰も皆、自分の先に広がる未来を見据えていた。 誰も皆、仲間とともに飲み明かすこの時を愛おしんでいた。金時が頼光の屋敷を発ったのは、その二日後のことであった。
