臣亮言す。
先帝創業未だ半ばならずし、中道に崩殂せり。
今 天下三分して、益州疲弊す。
此れ誠に危急存亡の秋なり。
然れども侍衛の臣、内に懈らず、
忠志の士、身を外に亡るるは、
蓋し先帝の殊遇を追いて、之を陛下に報いたてまつらんと欲すればなり。
誠に宜しく聖聴を開張して、以て先帝の遺徳を光にし、
志士の気を恢にしたまふべし 。
宜しく妄りに自ら菲薄し、喩えを引き義を失いて、
以て忠諫の路を塞ぎたまふべからざるなり。
宮中府中は、倶に一体為り、
臧否を陟罰して、宜しく異同あるべからず。
若し姦を作し科を犯し、及び忠善を為す者有らば、
宜しく有司に付して、其の刑賞を、論じたまひ、
以て陛下平明の治を昭らかにし、
宜しく偏私して、内外をして法を異にせしめたまふべからざるなり。
引用:『出師の表』(作:諸葛亮公明)
これを読んで涙しないものは忠臣に非ずと言われた、名文中の名文。
僕はこれを中学生時代に吉川英治の三国志で読んだ。たしかその中でも上にあげた原文のとおり書かれていた気がする。
策謀渦巻く戦国の時代、英雄・豪傑たちの物語に血を熱くして、本が擦り切れるまで何度も何度も読んだ記憶がある。だからこのくだりになると自然に目頭が熱くなって、どうしようもなかった。
出師の表はこの後に続きがあるので興味ある人はぜひ全文読んで欲しいが、書かれていることは、先帝劉備玄徳の知遇に応えんと、弱国であるにも関わらず、大国である魏への出兵にかける蜀の丞相、諸葛亮孔明の悲壮な決意と劉備の遺児劉禅に対して噛んで含めるように国王たるものの行いを教える深い情愛である。
劉備は死ぬ間際に公明にこう言ったそうだ、もし息子の劉禅に皇帝の資質があるなら、補佐してやってほしい。しかし劉禅が補佐するに足りない人物なら、君が代わりに国を治めてほしいと。
王位を狙って親子、兄弟同士ですら殺し合うあの時代にあって、これはほとんどありえない言葉である。
そして残念なことに劉備が危惧したように劉禅は暗愚であったとされる。どうせ親父には勝てないなどと自分を卑下し、安逸に走る風があったようだ。
そんな劉禅に対して、それではいけない。耳に痛いこともしっかり聞いて立派な王になって、公正な政治を行い民を慈しみなさいと、自身が王に取って代わるなど思いもせずにまるで父親のように諭している。
それが涙を誘うのだ。
大義を掲げ、大恩あるもののために命を削り、その子の行く末を我が子以上に案じている。
今、政治家の資質がいろいろと取り沙汰される。
その政治家を選んだのは我々国民であり、全ての責任は自分たちにあるのは良く分かっている。
だからこそ言いたい。
世界が分断し戦火が絶えない現代は当時の三国時代にも劣らぬほど、混迷を極めている。だからこそ諸葛亮孔明とまではいかなくても、強い信念を持ち、その信念をなさんするならば死をも辞さない覚悟で政治に当たって欲しい。
そういう政治家を僕は支持する。