やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり。
花に鳴く鶯、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。
力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の中をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは歌なり。
引用:『古今和歌集仮名序』(著:紀貫之)
古今和歌集。日本初の勅撰和歌集として紀貫之らによって編纂された和歌の書。
この中には当時の優れた歌人たちが詠んだ歌が集められており、学校でも習うのでそのいくつかはご存じのことだろう。
だが僕はこの序文の方にこそ惹かれる。
この文章はとても不思議だ。
普通であれば、天地の美しさ、荘厳さ、いわば自然に力があり、その力に動かされて言葉が出てくるような気がする。
だがこの文では言葉に力があり、その力が天地を動かし、鬼神の心すらやわらげると言う。
そして僕たち日本人は、そのことをなんとなく当たり前に受け入れている気がするのだ。
言霊とか言葉の力とか、そんな大層なものでなくても、挨拶や感謝の言葉を口にすることの大切さを、僕たちは自然と教えられてきた。
たった一言の言葉が人を動かし、人と人とをつなぎ、世界を変えるきっかけになるかもしれない。
だからこそ、言葉は大切だ。
だからこそ、いい言葉でいい文章を書きたいと思う。
この日本という国に生まれ育ったものとして、言葉を大切にし、後世に語り継いでいきたいと思う。
ここから先は、頂戴したコメントとそれらに対する僕の一言です。
「何と柔らかく優しい言葉の数々よ……これが和を尊ぶと言う事なのか。こうしたものが根幹に有るからこそ、今の日本があるのだなぁ……と実感します。余談ながら、何故白人文化圏はやたら争いが多いのかと言うと、とある仮説が有ります。人類がアフリカで誕生したという説が有力だった場合、白人とはアフリカから追い出されて北上した人種、と言うらしいです。そして行く先々で先住民や強い同胞に追い出され、やっとたどり着いた地は寒く暗く冷ややかで、ゆえに他者への攻撃性が育った……とやらが有ります。現に白人至上主義や魔女狩りの発祥は欧州ですし。無論これは仮説に過ぎませんが、日本とて色々有っての今です。願わくば世界が、それぞれの呪いを脱して自国を真の意味で尊ばん事を」(Gさん)
「日本に四季があり、自然が豊かなのも良かったと思います。歌を詠み、感動するのは……日本人のDNA。(*^^*)日本に生まれて良かったです、私も」(Hさん)
「『花は散るから美しい』~世阿弥~
『散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ』~細川 ガラシャ~
日本というか倭国特有の死生観、その美しさですよね。昔は今よりも遥かに人の生命は儚いモノで在ったでしょうから、ソコから西洋文化のようにその苛烈さや悲劇性を見出すのではなく
ソレを受け入れ人間の『本質』を見出そうとするのは極東の小さな島国とはいえ歴史の永い日本だけだと想います」(Sさん)
「おはようございます。改めて日本人であることを誇りに思います。心の宿った言葉を紡いでいけてるのか自信はありませんが、これからも書いて行きたいし書き続けて欲しいです。今日が普通で良い日になりますように~」(Aさん)
日本という国は不思議だ。
世界のどこかには似たような民族がいるように感じるが、僕の知る限り、そういう民族にお目にかかったことがない。
もののあわれ、和を尊ぶ、もったいない、おもてなし、美意識……
僕はそういうものを持つ日本人を素晴らしいと思うし、そういう日本人として生まれてきたことを誇りに思うし、幸せだと思う。この素晴らしい日本をずっと残していきたいと思う。
そのためにも、正しい歌、正しい言葉を残していかなければならないと思う。
日本人はずっとそうして正しい言葉を受け継ぎ、次の世代に託してきた。
日本語ができない学生が増えていると言うショッキングなニュースが、しばらく前にあってびっくりしたことを覚えている。SNSの普及や略語の普及、活字離れで文章を作る能力が圧倒的に低下しているのだそうだ。
英語教育も大事だが、僕は国語と歴史をもっとしっかり教えて欲しいと思う。
自分の国の歴史や文化を語れない人間は、いくら外国語を話せても本当の国際人とはいえないのだから。
僕は自分の目の前で僕の好きな日本がガラガラと壊れていくのをただ黙ってみていたくない。
だから声を上げる。
どんなに小さくても声を上げる。
子どもにも家族にも、その大事さを伝え、態度で示す。
物語を書き、こんなエッセイもどきの駄文の中で叫ぶ。
日本は素晴らしい国なんだと。
でも、自分たちがそういう日本に誇りを持って、自分たちの民族が持つ素晴らしい特性を残していかなければ、日本の美しさは消えてしまうんだと。
今、日本の美しさが揺らぎ始めている。
もし、皆さんが僕の思いにちょっとでも共感していただけるなら、どんなに小さくてもいいですから、声を上げて欲しいんです。
力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の中をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは歌なり。
僕は言葉があれば、絶対に何かを動かすと信じている。