アマチュア作家の成り上がり執筆録

素人作家がどこまで高みに昇ることができるのか

【心に残る言葉名作選】『秘蔵宝鑰』

 三界の狂人は狂せることを知らず
 四生の盲者は盲なることを識らず
 生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く
 死に死に死に死んで死の終りにくら

引用:『秘蔵宝鑰』(著:空海)

 

 この文章、非常に印象的なフレーズで、一度読んだら忘れられないんじゃないだろうか。 
 空海和尚は密教の祖というだけでなく、筆や歌もよくし、文章にも通じた当代きっての才人であり、なんと日本初の小説ではないかと個人的に思っている三教指帰さんごうしいきという書物までも書いているが、この文章を見ると、改めて空海の凄さ、人を惹きつけてやまないその言葉の魅力に圧倒させられる。

 人というのは自分たちがどこから生まれたのかも知らず、自分たちがどこにいくのかも知らず、何も知らぬまま死んでいく。

 まさにそのとおりだろう。
 生きる意味を死ぬまでに悟れるのか、そもそも生きる意味なんてあるんだろうか。
 そんなことに振り回され、結局、分からずじまいで死を迎える。
 そんなことの繰り返しなんだろう。

 この文書をもってきたからと言って、僕は別に密教を信仰しているわけではないし、どの宗教にも特別の思い入れはない。
 だが、無神論者とは違う。
 なにか特別な、人智を超えるものがきっと存在し、この世界にはきっと意味があるに違いないとは信じている。
 でもそれを見つけられるかどうか、おそらく見つけられず、同じように死んでいくんだろうと思う。

 ただ最後の刻を迎えたときに、こうありたいと思うことが一つだけある。
 それは、人生いろいろあったけど、まんざら悪くなかったなと笑って死にたい。自分の歩んできた人生に納得してこの世を去りたいということだ。

 だから後悔したくない。
 夢や希望を捨てたくない。
 結果はどうでもいい、その夢に向かって、必死になって頑張ってみたい。
 自分の人生に後悔しないために。

 

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【心に残る言葉名作選】『I Have a Dream』

I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at the table of brotherhood.
I have a dream that one day even the state of Mississippi, a state sweltering with the heat of injustice, sweltering with the heat of oppression, will be transformed into an oasis of freedom and justice.
I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.
I have a dream today!
I have a dream that one day, down in Alabama, with its vicious racists, with its governor having his lips dripping with the words of "interposition" and "nullification" -- one day right there in Alabama little black boys and black girls will be able to join hands with little white boys and white girls as sisters and brothers.
I have a dream today.

引用:1963年8月28日に行われたワシントン大行進の際に行われたマーティン・ルーサー・キング・ジュニアによる演説

 

 言葉とは紙に書かれたものばかりではない。民衆に向かって放たれた言葉もまた心に残る言葉となる。
 過去、そうして放たれた言葉のいくつかは、まさに偉大な言葉として紙に記録され後世に語り継がれてきた。僕はまだライブでそうした魂が震えるような言葉を聞いたことはないが、過去に録画されたものというなら、この演説が一番心に残っている。

 人種差別撤廃を訴えたキング牧師。
 白人たちによって侵略され、白人たちのために作られたアメリカという新たな帝国。
 その中で黒人や肌の色が違う人種たちはずっと差別を受けて支配されてきた。
 それはおかしい、それは間違っていると、キング牧師は説いた。

 上の文章の大意はこうだ。
 私には夢がある。
 いつか牧場で働く奴隷の子どもと牧場主の子どもが兄弟のようにテーブルに座ることができる日が来ると。
 不正と抑圧で焼け付かんばかりのミシシッピ州ですら、いつか自由と正義のオアシスに変わるだろうと。
 私の4人の子どもたちが、いつか肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むだろうと。
 邪悪な差別主義者たちのいるアラバマでさえも、いつか黒人の少年少女が白人の少年少女と兄弟姉妹として手をつなげるようになるだろうと。

 もちろん、今も差別は根強く残っている。
 だがこの演説はアメリカを変え、世界を変えた。
 それから46年後、アメリカ初の黒人系大統領が生まれたとき、この演説を聞いた20万人の観衆は何を思っただろう。世界は何を感じただろう。


 言葉は世界を変える。
 まさに人類史に残る言葉であったと思う。

 

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【心に残る言葉名作選】『出師の表』

 臣りょう言す。
 先帝創業未だ半ばならずし、中道に崩殂せり。
 今 天下三分して、益州疲弊す。
 此れ誠に危急存亡のときなり。
 然れども侍衛の臣、内におこたらず、
 忠志の士、身を外にわするるは、
 蓋し先帝の殊遇を追いて、之を陛下に報いたてまつらんと欲すればなり。
 誠に宜しく聖聴を開張して、以て先帝の遺徳をおおいにし、
 志士の気をおおいにしたまふべし 。
 宜しく妄りに自ら菲薄し、喩えを引き義を失いて、
 以て忠諫の路を塞ぎたまふべからざるなり。
 宮中府中は、もとに一体り、
 臧否ぞうひ陟罰ちょくばつして、宜しく異同あるべからず。
 若し姦をとがを犯し、及び忠善を為す者有らば、
 宜しく有司に付して、其の刑賞を、論じたまひ、
 以て陛下平明の治を昭らかにし、
 宜しく偏私して、内外をして法を異にせしめたまふべからざるなり。

引用:『出師の表』(作:諸葛亮公明)

 

 これを読んで涙しないものは忠臣に非ずと言われた、名文中の名文。
 僕はこれを中学生時代に吉川英治の三国志で読んだ。たしかその中でも上にあげた原文のとおり書かれていた気がする。

 策謀渦巻く戦国の時代、英雄・豪傑たちの物語に血を熱くして、本が擦り切れるまで何度も何度も読んだ記憶がある。だからこのくだりになると自然に目頭が熱くなって、どうしようもなかった。

 出師の表はこの後に続きがあるので興味ある人はぜひ全文読んで欲しいが、書かれていることは、先帝劉備玄徳の知遇に応えんと、弱国であるにも関わらず、大国である魏への出兵にかける蜀の丞相、諸葛亮孔明の悲壮な決意と劉備の遺児劉禅に対して噛んで含めるように国王たるものの行いを教える深い情愛である。

 劉備は死ぬ間際に公明にこう言ったそうだ、もし息子の劉禅に皇帝の資質があるなら、補佐してやってほしい。しかし劉禅が補佐するに足りない人物なら、君が代わりに国を治めてほしいと。

 王位を狙って親子、兄弟同士ですら殺し合うあの時代にあって、これはほとんどありえない言葉である。

 そして残念なことに劉備が危惧したように劉禅は暗愚であったとされる。どうせ親父には勝てないなどと自分を卑下し、安逸に走る風があったようだ。

 そんな劉禅に対して、それではいけない。耳に痛いこともしっかり聞いて立派な王になって、公正な政治を行い民を慈しみなさいと、自身が王に取って代わるなど思いもせずにまるで父親のように諭している。
 それが涙を誘うのだ。
 大義を掲げ、大恩あるもののために命を削り、その子の行く末を我が子以上に案じている。

 今、政治家の資質がいろいろと取り沙汰される。
 その政治家を選んだのは我々国民であり、全ての責任は自分たちにあるのは良く分かっている。
 だからこそ言いたい。
 世界が分断し戦火が絶えない現代は当時の三国時代にも劣らぬほど、混迷を極めている。だからこそ諸葛亮孔明とまではいかなくても、強い信念を持ち、その信念をなさんするならば死をも辞さない覚悟で政治に当たって欲しい。
 そういう政治家を僕は支持する。

 

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