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『春望』

 国破れて山河在り
 城春しろはるにして草木深し
 時に感じて花にも涙をそそ
 別れを恨んで鳥にも心を驚かす
 峰火ほうか三月に連なり
 家書萬金ばんきんあた
 白頭はくとういて更に短かし
 べてしんえざらんと欲す

引用:『春望』(作:杜甫)

 この詩は中学の時に初めて習ったものだが、いまだに最も心惹かれる漢詩です。
 戦により荒廃した街並み、しかし山や川は何も変わらぬようにそこにあり、春を前に草花もいよいよ深く生い茂っている。
 戦争を知らない僕ですら、ありありとその情景を感じられ、おそらく戦争に負けて帰ってきた日本兵たちも、焼け野原と化した故郷とともに変わらぬ姿で聳える山々や、往古の姿で流れ続ける川を見て涙を流したろうと思うのです。
 
 いや、つい最近も、そして13年前にも、ある一瞬を境に、多くの町や家は跡形もなく消え去り、多くの命が失われました。
 東日本大震災の後、僕はしばらくの間、その地に行くことができませんでした。
 よく釣りに行った懐かしい思い出の地が無残に破壊された姿を見るに忍びなかったのです。
 一年以上たってから、そこに立った時、そこには見事に何もありませんでした。
 人間が作った堤防や施設などは何一つなく、ただ海に突き出た岩礁や島が何事もなかったようにそこにありました。

 同じように昨日、テレビで能登半島に桜が咲いたニュースを見ました。まだ瓦礫が散在している中で、桜は何事もなかったかのように花を咲かせていました。その姿を見たとき、思わず込み上げてくるものがありました。

 国破れて山河あり。
 これも人間の業が木っ端みじんに破れ去り、悠久の自然が残った一つの証なんでしょう。

 被災された方々に心より御見舞申し上げるとともに、自然の美しさと恐ろしさに畏敬の念を抱き、この詩を味わいたいと思います。

 

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