「しかし、あれだけいたのに、残ったのはこれだけかよ」
貞光は源頼光と主従の契りを結ぶために集まった仲間の数を見てあきれたようにつぶやいた。それもそのはず、相撲大会の折には五十人を超えていたのに、ここにいるのは十人にも満たなかったからである。
確かに取り組みが終わった後に頼光に全員取り立ると言われたときは皆、鬼を倒して己の名を天下に轟かさんと己の将来に夢を感じたのは事実であったが、その直後、藤原保昌率いる三千の手勢がたった一人の鬼によって壊滅させられたことを知ると、命あっての物種と一人減り二人減り、結局残ったのは数えるほどになってしまったのであった。
だが上座に座る頼光はそんなことを気にしている風もなく、脇に座る綱相手に気楽な様子で何かを語り掛けていた。そしていよいよ全員が揃ったと見るや背を正し、張りのある声でしゃべり始めた。
「皆の者、よくこの場に集まってくれた。ここに残ったものこそ真の男というべきものたちであり、まさに一騎当千の強者である。我らはこれから鬼どもを相手に戦うことになる。もとより死は覚悟の上。だが私はいささかも恐怖を感じてはおらん。なぜか? それは、己の力を思う存分に発揮することができる機会に巡り合えたからだ。男として生まれたからにはおのが力を天下に問わずしてなんとしよう! おそらく、お前たちもその想いがあればこそここに集ったのであろう。これから私とそなたたちは盃を交わすことになるが、私はそなたたちを家来とは思っておらん。同じ夢を持った同志として、今生の契りを結ばんとするものである」
皆、一言もしゃべらず頼光の言葉を聞いていた。誰も彼もその眼は輝いていた。季武の顔は赤く染まり、貞光の眼は爛々と輝き、金時ですら体全体が燃えるような熱さを感じていた。そしていよいよ盃が準備されると、金時たちは一人づつ頼光の前に進み出て、頼光と杯を交わした。全員との盃の交換が終わると頼光が声を上げた。
「さて、盃を交わしたばかりではあるが、早速、これから鬼と手合わせに参る。無論、これは小手調べじゃ。だが小手調べといっても相手は鬼、この中の誰かが死ぬことになるやもしれん。決して油断することなきように。皆は私と共に一条戻り橋に参る。ただし貞光は綱と共にこの屋敷に残れ」
「……俺は留守ですか、俺も皆と共に鬼退治に参りたく思いますが……」頼光の命を聞いた貞光が不満げな顔で言った。
それを聞いた頼光がふふと笑った。
「ならばこそ、そなたを残すのじゃ。そなたらも聞いたことがあろう。この屋敷にはこの綱が切り落とした茨木童子の手がある。我らが大挙、家を空けたと見れば茨城童子はどう思う。まさに千載一遇の好機。ここに乗り込んでくるとは思わぬか」
「なるほど! するとこれは、おとりを餌に一気に大魚を釣らんとする謀ですか」
「茨木童子がそう都合よく現れるかどうかは分からぬが。きっと鬼はこよう。そのためにもここにも猛者を残しておかんとな。頼むぞ貞光」
「委細承知! この貞光にお任せを!」そう言うと貞光はどんと胸を叩いた。
頼光は満足げに貞光を見ると、脇に座る綱を見た。
「では綱よ、ここの指揮は任せたぞ」
「承知しました。どうぞ殿もご無事で」綱は静かに頭を下げた。
「では、残りのものは私に続け!」頼光の言葉に応じるように、金時たちは勢いよく立ち上がった。
