「着替えてきました…」
「白鳥くん、君が選択したのはガーター吊り下げタイプのパンストだろう」
「えっ、パソコンを見ているのに、なんでわかるんですか!」
「きみ……女性というものは、非常に外見に気を遣うものだろ。それは、極論をすれば、人に見られることを前提として生きているからだ。君の性格はまだよく知らんが、少なくても大学教授の助手として働こうとするものが、厳粛な学び舎の中で、赤いリボンがついたパンストなどはけるはずもあるまい。それに比べて、ガーター吊り下げタイプのパンストがいかにエロくても、外目にはなんら普通のパンストと変わることはない。内心の恥ずかしさはおいとくとして、君がガーター付きパンストを選択するのはごく自然なことだろう」
「……すごい」
「白鳥君、こんなものは女性心理の問題だよ。私の研究とは一切関係ない。だがもし、君が少しでも女性心理を学びたいというのであれば、ぶんちく氏のエッセイを見るといい。彼は今、女性心理について研究しているようだからな」
「そういえば、博士が投稿したのは、そのぶんちくさんという方のアカウントからでしたけど、その方とは何かご関係があるんですか?」
「彼は私の大学の同期だよ。しかし彼は、大学時代、私に代返ばかり頼みおって、毎日、サーティーワンアイスクリームで女子相手にアイスを売っていたよ。今思うと、あいつはあの頃からエロかった」
「……博士も十分エロイと思いますが……」
「なにか、言ったか?」
「いや、なんでもありません」
「まあ、そんなことはどうでもいい、早速、研究を始めようではないか。このままだと、単なるエロコメディとして早々に飽きられてしまうだろうからな――白鳥君、その場に後ろ向きで立ってくれないか」
「――えっと、これでいいですか」
「……」
「博士、何してるんです。なにか凄い、視線を感じるんですけど……」
「……」
「もう、いったい……」
「こっちを向くな!!!」
「す、す、すいません」
「――白鳥君、君はエロの本質を知っているか」
「あの、意味がよく……」
「エロとは本来、女性の顔の美醜とは何の関係もないものなのだ。逆に女性の顔はエロ測定の妨げになる。だから女性のエロさを測るには、後ろ向きで測定するのが一番なのだよ」
「ああ、よく男性が女性の後ろ姿に惹かれるってやつですね」
「よく、分かっているじゃないか――しかし白鳥君、やはり君を選んで成功だった。淡くかおる石鹸の臭い、膝上10センチの黒いミニスカートに白いカーディガンコーデ。しかも、ヒール高のパンプスを履いて、すらりと伸びた足は照り輝くのようなベージュのパンストの艶で凄まじいまでのオーラを醸し出している。」
「……いったい、なんなんですか、凄い恥ずかしいんですけど」
「もういい、座りたまえ――いいかい、エロを表現する手法として、おっぱいやらパンティなどとやたらに直接的な言葉を使うものが多いが、そんなものは文学ではない。まして、バスト99、ウエスト55、ヒップ88などと数字を使うのはもっての外だ。数字は単なる記号であって、それ自体、なんの意味ももっていない。もしどうしても、そのサイズ感の女性のエロさを表現したいのであれば、こう書けばいい――その女性は、まるで峰不二子のような完璧なスタイルで、全身から圧倒的な性を放出させて、そこに立っていた、とな」
「なるほど」
「それを分かった上で、私が君を評した言葉を思い返してみなさい——どうだ、そこには、あるのはごく普通の単語だけだ、エロい単語など一つも入っていない。だが! おそらく、この文章を読んだほとんどの男性は、そこに確実にエロさを嗅ぎ取っている――白鳥君、エロさとは直接的なものではないのだよ。ほんのりと匂わせる、かすかに期待させる、それが真のエロ表現なのだよ!」
「博士! 私、博士を見直しました。博士はただのエロいだけの変態じゃなかったんですね!」
「……きみ、結構、きついな」
(続く)