「……あの角の男だ」
「博士、怖い!」
「大丈夫だ! 僕がいる……おっと、こっちの角にも男がいて、君を見ている。どうやら、このシマは、君の放つエロフェロモンの影響で彼らの正常値エロをはるかに超えてしまったようだ。ここにいるのは危険なようだ。さっさと出よう!」
「はい!」
「――ふう。やはり、君の存在は物凄い化学反応を起こしたね。彼らはもはやエロビデオを選ぶどころじゃないよ。どの女優の顔を見ても君の顔を想像するだろう。この後、部屋にこもってビデオを見たとしても、もはやストーリーなどそっちのけで、君の姿態を思い出し、君を想って、放出することになるね」
「そんな! 博士、気持ち悪いです!」
「しょうがないよ。女性はすべからく、男からそう言う目で見られているのだからね。そして女性もある意味、必ずしもそういうことを望んでいないにせよ、男の視線を集めようとして、身を飾るわけだからね。だがこれは生物にとって必要なことなのだよ。まあ、人間以外の生物が、どちらかというとメスの気を引くためにオスの方が美しく、奇抜な格好をするのが多いのは意外な気がするがね。まあ、そんなことはどうでもいい。さあ、ここを出てラブホテルに行こう。少し休んだ方がいい」
「ラブホテルなんかで休めません!」
「何をいう、ラブホテルの看板には休憩とでかでかと書いているではないか。つまり、休憩には最適なところだよ! しかもあそこはドリンク飲み放題でWi-Fi完備、風呂もシャワーも浴びられる。それでいて安い所は三千円以下で入れるんだよ君、私は気晴らしによく一人でラブホテルに行ってリフレッシュしているよ。ポイントカードまで作っているからね」
「……そうなんですか、知らなかったです」
「白鳥君、ここにもエロが介在しているのだよ。なにかラブホテルと聞くと、みんなエロを想像していしまう。入ってはいけない場所のように勘違いしてしまうんだよ。実際入ってみれば、快適で爽やかな空間だよ。分かっただろ、さあ、車に乗って!」
「何か騙されているような気がするんですが……」
「何しているんだ、早く行くよ!」
「あっ、はい!」
「――ところで、一つ質問があるが、君は男が車を運転する姿にエロを感じるかね?」
「エロというか、まあ、運転が上手な人はかっこいいなと思ったりはしますけど」
「それはね、車を運転するのが上手ってことは、女の扱いも上手なように脳が変換してしまうからだよ」
「そうなんですか!」
「そうに決まっているじゃないか、加速運動、減速運動を繰り返し、時には急発進、時にはストップ、なめらかなカーブを描きながら、こすらんばかりに、ギリギリまでエッジに迫る。しかも終末は、ワックスを持ち出して、ピカピカにボディを照りつかせ、愛撫するようにやさしくケアをする。白鳥君、きみ、この文章を読んで何を想像する。あれしかあるまい、あれしか!」
「……問題と結論との帰結には納得できませんが、文章は確かにそんな感じです」
「きみも、なかなかアカデミックになってきたね――ラブホテルに行くのが、ますます楽しみになってきたよ」
「……いやな予感しかしないんですけど」