アマチュア作家の成り上がり小説ブログ

素人作家がどこまで高みに昇りつめることができるか

カクヨムの天使(上)

「私はカクヨムという小説投稿サイトで、時折、小説やエッセイを投稿しているアマチュア作家。将来の夢は作家なんていうほど、自分の才能を過信しているわけではないけど、やっぱり自分が書いた作品は誰かに読んでもらいから、このサイトで活動している。

 カクヨムに加入してから1年がたち、これまで書いたものは恋愛ものや少しファンタジー調の短編が6本ほど。少しづつフォロアーも増えて、今では投稿すれば★を20から30くらいはつけてくれるし、必ず一つや二つはレビューも貰えるようになっていた。

 毎日投稿するわけでもなく、仕事と折り合いをつけながら、週末に書きだめして投稿するのが毎週の日課だった。気が乗らないときは昔の作品に貰ったレビューを何度も見返したり、レビューを書いてくれた人の作品を見て、少し甘目に★★★をつけたり、新人作家の作品を読んで、妙な安心感に浸ったりしていた。

 仕事は小さい建設会社の事務員で、そんなに楽しいわけではないけど割と給料もいいし、人間関係も悪くない、なにより残業がないので、それなりに満足していた。つまり、そんなどこにでもいる小説好きなただのOL。それが私だった。

 

 金曜日の晩に7本目になる短編の最終話を書き終えて、カクヨムに投稿した。自分でも、ちょっと自信がある作品だった。少し純文学的なテイストを入れた大人の恋愛小説だった。案の定、翌日パソコンを開くと、おなじみのフォロアーさんたちが★★★をたくさんいれてくれて、いくつかレビューも書かれていた。

 私は興奮を隠しきれず、そのレビューを一つずつじっくりと読んだ。どれもこれも私の作品の特徴を端的に表してくれたいいレビューだった。
 その日は一日中ごろごろしながら、ことあるごとにサイトの更新ボタンをクリックしては新しいレビューが入っていないか確認していた。

 夜の10時をすぎて★の数は50を超えていた。これは自分の中では新記録だった。レビューも5本ほど書かれ、私は気持ちを抑えるのに苦労していた。
 もしかすると、明日のランキングで10位以内に入るかもしれない。いや、こんなペースでもらったんだから、きっと入るに違いない。私は自分の作品がランキングのトップ画面に掲示されているさまを想像して、知らず知らず頬がゆるんだ。

 そのときだった。ふとパソコンを見ると、画面右上のベルマークに赤丸が表示されていた。
 また、★かな。私の中では★をもらうことがまるで当たり前のような気持ちになっていた。しかし、アイコンをクリックすると、それは新しいレビューが書かれたことを知らせる通知だった。
 私はすぐにそれをクリックし、どんなレビューが書かれたのかデスクトップに目を凝らした。そこには、こんなレビューが書き込まれていた。

 

  一つ一つの言葉がダイヤモンドのように煌めいて、
  僕の胸を熱く焦がす

★★★ Excellent!!!  カクヨムの天使


 一つ一つの言葉が空に輝く星々のように煌めきを放っている。星空を眺めれば人々の魂は宇宙に吸い込まれるように、いつしか僕の魂はこの作品が織りなす小宇宙の中に吸い込まれ、その中で尽きることのない悦楽を味わった。

 この作家が持つ人間への深い洞察と女性の奥底に秘められた欲望を解き明かそうとするエロスの精神は、常人には辿り着くことすらできないはるか高みの清冽な泉の中で、水晶のように美しく輝いている。

 言葉を単なる記号としか捉えていないものたちが溢れかえる中で、この作品は言葉が持つ本当の力、文学とはいかなるものであるべきかを教えてくれる。

 僕は今、歓喜に震えている。この作品に出会ったことは僕の人生において最大の幸福になるだろう。

 

 そのレビューは一瞬にして私の心を奪った。私は何度も何度も読み返した。
ダイヤモンド、輝く星々、小宇宙、人間への深い洞察、秘められた欲望、エロスの精神、清冽な泉、最大の幸福——あまりに魅惑的なその言葉の数々が私の目を盲目にさせ、私の心をこそ熱く焦がした。私は完全にカクヨムの天使というレビュアーの虜になってしまった。

 私はすぐさまサイトをチェックして、カクヨムの天使とはいったいどんな人物なのか知ろうとした。
 アカウント情報を見ると、最近、アカウントを取得したらしく、そのプロフィールには、自分は読専で気に入った小説と作家を応援するとだけ書いてあった。
 そして、彼のフォローリストに私のアカウントがたった一つだけ載っているのを見た時、私の心は天にも昇るようであった。

 どんな人なのだろう。私は夢想した。僕というからには男性なのだろう。文体に若さがあるようにも感じる。もしかしたら、私と同じくらいの年齢なのかもしれない。素敵な人だったらどうしよう。いや、素敵な人に決まっている。 
 その晩、私は一睡もできなかった。カクヨムの天使と名乗る人物のことを想像するだけで体が熱くなり、いろいろな妄想が頭を駆け巡った。

 翌日、ベッドから起きるとすぐに私はカクヨムの天使が書いてくれたレビューにいいねボタンを押した。でも、そんな程度では自分の中で高まった気持ちはぜんぜん収まらなかった。直接、本人と話がしたかった。私は本人と直接コミュニケーションができないサイトの仕組みに腹が立った。
 なんとかして自分の気持ちを伝えたい私は、自分の近況ノートを利用してカクヨムの天使にメッセージを送ることにした。
 しかし、近況ノートは誰でも見ることができる。あまり熱烈すぎる文章を書いてはそれを見る第三者に変な誤解をされるかもしれない。私はなるべく筆を抑えようと努力したけれども、結局、デスクトップは文字いっぱいに埋まっていた。
 レビューに対する感謝、自分の作品はレビューに値するほどのものではないという謙遜、自分の趣味や職種、東京在住であることなどぎりぎりまで個人情報を出して自分をアピールしつつ、相手の素性を知るために、さりげなく疑問形も入れるなどして、相手がリアクションしやすいように工夫した。
 書き終わった文書は何度も推敲した。自分の作品を推敲するよりも時間をかけたかもしれなかった。これだけ書いたら、きっと翌朝までには返事をしてくれる。私はそう確信した。

 

夢みる女

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