すらすら書けるジャンルとなかなか筆が進まないジャンルがある。
例をあげると、現在書いている、近未来の地球を舞台にしたSFミステリー「神の遺伝子」は書くのが非常に難しい。
なぜ難しいかというと、SFのS、つまりサイエンスという意味において、ある程度科学的な事実に即した物語にしなければならないだろうという思い込みがあり、こういうことがあり得るだろうかとイチイチ確かめないと進めないからだ。
加えて、ミステリーというのはやっぱり伏線なり、プロットの重要性が増すので、全体の構成を考えつつ、どこで手の内を明かしていくかということをしっかり考えないと物語が破綻するからだ。
かつて書いた、「ツァラトゥストラはかく語りき」という長編社会派ミステリーも完結させるのに、だいぶ時間がかかったことを思い出す。
かといって、ミステリーが嫌いと言うわけではない。
本で読むならミステリーが一番好きだ。
のめり込むと、無我夢中で読んでしまう。
ダンブラウンの「ダヴィンチコード」などは本当に凄いなと感じた。ああいうリアル感がある深いミステリーを書いてみたいと思う。
逆にすらすら書けたのが、「異形の国」という歴史ファンタジーで、いつもあまり考えずに、シーンと登場人物だけ決めて、後はいかにキャラたちをかっこよく立たせるかということだけを大事にして書いた。そんなこともあって、軽く10万字を超えてしまったが、あまり苦労せず書き終えることができた。
まあ、どちらにせよ、書けば書いただけ書く力は増すと思えば、ジャンルに関わらずどんどん書いていきたい。
僕が最初の1文字から書き始めてから、これまでに100万字近く書いてきた。
何かの本にあったが、原稿用紙1万枚分書いてようやく物書きとしてのスタートラインに立てるそうだ。
原稿用紙1万枚、つまり400万字。
そういうことで言えば、僕はまだスタートラインにすら立てていないわけだ。
プロと呼ばれている人たちは、既にそれだけのものを書き、そして今日も、何千、何万字と書いて文章力をさらに高めているんだろう。
誰かがこう言ったそうだ。
「小説家になりたい人間に用はない。小説を書くことしかできない人間なら歓迎する」と。
僕は作家として飯を食っていくつもりはないが、物語を書く人間の端くれとして、その言葉は真理だと思う。