アマチュア作家の面白い小説ブログ

素人作家がどこまで面白い小説を書くことができるか

【心の闇に戦慄する小説】『カクヨムの天使』

 

 

はじめに

 この短編は、かつてカクヨムという小説投稿サイトで活動していた時に書いた短編小説で、400以上の星(★)とたくさんのレビューをいただいた僕にとってカクヨムでの代表作みたいな作品です。7千字程度の短い短編ですので、どうぞ、お気軽にお読みください。

 

 

本編

(上)

「私はカクヨムという小説投稿サイトで、時折、小説やエッセイを投稿しているアマチュア作家。将来の夢は作家なんていうほど、自分の才能を過信しているわけではないけど、やっぱり自分が書いた作品は誰かに読んでもらいから、このサイトで活動している。

 カクヨムに加入してから1年がたち、これまで書いたものは恋愛ものや少しファンタジー調の短編が6本ほど。少しづつフォロアーも増えて、今では投稿すれば★を20から30くらいはつけてくれるし、必ず一つや二つはレビューも貰えるようになっていた。

 毎日投稿するわけでもなく、仕事と折り合いをつけながら、週末に書きだめして投稿するのが毎週の日課だった。気が乗らないときは昔の作品に貰ったレビューを何度も見返したり、レビューを書いてくれた人の作品を見て、少し甘目に★★★をつけたり、新人作家の作品を読んで、妙な安心感に浸ったりしていた。

 仕事は小さい建設会社の事務員で、そんなに楽しいわけではないけど割と給料もいいし、人間関係も悪くない、なにより残業がないので、それなりに満足していた。つまり、そんなどこにでもいる小説好きなただのOL。それが私だった。

 

 金曜日の晩に7本目になる短編の最終話を書き終えて、カクヨムに投稿した。自分でも、ちょっと自信がある作品だった。少し純文学的なテイストを入れた大人の恋愛小説だった。案の定、翌日パソコンを開くと、おなじみのフォロアーさんたちが★★★をたくさんいれてくれて、いくつかレビューも書かれていた。

 私は興奮を隠しきれず、そのレビューを一つずつじっくりと読んだ。どれもこれも私の作品の特徴を端的に表してくれたいいレビューだった。

 

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(下)

 翌朝、私の期待は見事に裏切られた。近況ノートには何のリアクションもなかった。
 その日は仕事どころではなかった。私は頻繁にスマホをいじってはリアクションの有無を確かめた。
 相手だって仕事があるんだ、すぐに返事を出せる余裕がないのかもしれない。そんな風に自分に言い聞かせた。でも、そう思った数分後には再び机の脇においたスマホの画面を触っていた。

 

 その一週間は私にとって残酷なくらい長くて、辛い一週間だった。私はほとんど仕事が手につかず、ひたすらスマホをチェックするだけの日々を過ごしていた。
 私はもはや、ただ待つことに耐えられなくなっていた。金曜日の夜、私は家に帰るとバッグを放り投げて、そのままパソコンの前に座り、新しい小説を書き始めた。

 短編ならすぐに書ける。今日中に仕上げれば明日には投稿できる。そうしたらカクヨムの天使が見てくれるかもしれない。それだけが私の心を占めていた。

 

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読者さまからいただいたコメント

 

 ここからは、これをカクヨムで投稿した時にいただいた読者様からのたくさんのレビューやコメントの一部を紹介させていただきます。

 

 存在感とインパクトがすごい。6,897文字に、これだけのインパクトを詰め込むことができる技術力は圧巻です。(Sさん)

 

 上と下の2話を一気に読む事をおすすめします。理解できる苦しさと結末への好奇心でドキドキが止まりませんでした。正におみごと!です。凄いなぁ。(Kさん)

 

 ここで書かれていることは一見ノンフィクションではないかと思うほど、日常をリアルに表現しています。
 私たちはいつでもこの主人公になりうる危険性を孕んでいます。その上で私たちはどう生きるか、間違わないためにはどうすればよいか。
 そんな大切なことを教えてくれる「超絶」ホラーです。(Kさん)

 

 物語を創作する事は楽しい。
 それは人間の根源的な楽しみである。
 だがそれが他人に評価されるか…
 その悦びは一気に麻薬的、悪魔的な悦びとなり、純粋な創作の楽しみとは、似て非なる物になる。
 ネットにて創作が可能になり、創作と評価の悦びと不安を、テンポ良い文体で、誰にでも起こりうる恐怖として、見事に短編にまとめあげた傑作。(Oさん)

 

 ここカクヨムなどで作品を投稿している「書き手」なら共感することばかりです。
 誰かに読んでほしくて作品を公開している以上いただける評価やレビューはとても嬉しいものです。またそんなレビューをいただけたなら、と次回作を創作します。「書き手」ならみんなそうでしょう。ただその創作意欲が少し間違った方向に向かってしまうと……。

 これはフィクション。
 こんなことあり得ない。
 とは言い切れない現実があります。
 なんのために創作するのか。
 あらためて考え直させられる素晴らしい作品です。
 自身の創作にあたって背筋が伸びるような読後感。
 感謝をこめて最大級の評価とレビューをこの作品に。
 皆さんもぜひ読んでみてください。(Sさん)

 

 書き手の心に棲む魔物。
 自分自身にすら理解ができない、それでいてどうしようもなく自分を突き動かす、恐ろしい魔物。その生々しい姿が、この物語の中にはっきりと描き出されています。
 主人公が取り憑かれていくその心理状態は、書き手としてあまりにもリアルで……背筋が寒くなる思いがします。
 そして、そのラストの衝撃に、脳が強烈に揺さぶられる。脳の奥で、何か巨大な振動がずっと続いていくような余韻が、いつまでも残ります。

 物を書く人には、ぜひ読んで欲しい。
——そして、読み手の方にもぜひ知って欲しい。書き手が心にどのような魔物を棲まわせながら、一つ一つの作品を書いているか。
 小説を愛する全ての人に、強く勧めずにはいられない作品です。(Aさん)

 

 自分の評価と他人の評価の違いにうろたえるカクヨム作家の業を、これでもかと抉ってみせます。
 読者は読みながら、この作者に自分の日常を覗かれたのでは…という恐怖さえも覚えながら、一気に最後まで読ませます。
 ここに描かれたのは、作者によってカクヨム作家に仕掛けられた罠なのかもしれません。(Sさん)

 

 作家はとかく友人には欲しくないタイプだと言われますが、その卵ですらない私もまったく共感するところです。
 臆病なくせに猛進する、反応が来れば余計にそれは加速する。そういう怖さを経験した方は多いのではないでしょうか。でも、それを作品として完結させているのが何よりすばらしいと思います。
 エンターテイメントにしたくない感情をまとめあげた、その筆に感謝です。(Mさん)

 

 少々、ミステリっぽくも感じますが、文体に命を感じます。
 血が通ってこそ、ヒトに訴える『 モノ 』があるかと。
 飾らない表現が魅力的でした。(Nさん)

 

 この物語に登場する女性は、いい意味で特徴がない。どこにでもいる、私達の分身のような人だ。だからこそ、私達の未来がこうなる可能性を秘めているという事実に恐怖した。彼女というより、もはや自分の未来がこの物語には書かれているように感じ、焦る様な気持ちでスクロールして読み続けた。
 物語を書く人ほど、この話の結末恐ろしく、自分のことのように感じるだろうと思う。(Sさん)

 

 この作品は、コメント欄にある様々な意見によって初めて完成するのだと思う。これを読んで普段作品を発表する側の人間がどの様な感想を持ったのか?
 自分の小説に珠玉のコメントを返してくれるカクヨムの天使。読者に翻弄される作者の心理描写にリアリティがあって、今は読者となった作家達の感情を引き摺りだす。恐怖、共感、拒絶、そして自分の中にカクヨムの天使を見つけて自戒する者……。
 私はこれを読んでいる間、作中のストーリーとコメント欄との対比が、まるでそれらを含めた作中劇のように作用し、自分を含めて鳥瞰させられている錯覚に陥っていた。その上で自分ならどのような感想を持つのか、たまには自問してみるのも面白い。(Sさん)

 

 パソコンを見つめる作者の想いは、まるでスマホを見つめる片思い女子のよう。男性の作者なのに女性の恐ろしさを見事に描いている作品です。(Kさん)

 

 主人公が小説投稿サイトを利用しているアマチュア作家ということで、感情移入がすんなり出来て、だからこそ恐ろしくてたまらない作品でした。
 自分も一歩間違えればこの主人公のようになっていたかもしれない。そう思うと震えが止まりません。自分の中の見たくない部分を直接突き付けられている生々しさがありました。
 主人公が狂っていく様はまさにリアルの一言に尽きます。
 後編で明らかになるこの作品全体の『仕掛け』に気付いた時にはぞっとしました。自分が狂気に染まる前に、見つけてもらいたい作品だと思います。(Kさん)

 

 カクヨムで小説を投稿している主人公。
 サイト内での評価もぼちぼち、いつも読んでくれる仲良しもいて満足している。仕事もまあまあ順調、特に困ったこともなく充実した日々を送っていた。
 そこへ、ひとつ、とても嬉しくなるレビューが届いて……
 主人公の行動は異常なのかもしれない。
 でも共感出来てしまうところもある……もしかしたら私も……?
 ホラーです。がつんと来ました。カクヨム利用者なら一読の価値ありです。(Tさん)

 

 ネット小説を書く上で評価の価値は切っても切れないもの。プロへの指針の一つであり、また自分の作品の価値を確認する手段でもある。それは人それぞれが意味を持つのだろう。ならば……たった一人のフォロワーに評価して貰いたいと考えるのも、また一つの価値観だと思う。
 この物語の主人公はそのたった一人の評価の為に壊れていった……そんな、ホラー要素があります。
 小説と自らの作品を愛する者ならば、その暴走の理由もまた僅かながらに理解できるかもしれません。
 このお話はネットによる盲目な心に諭す側面もある……そんな気がします。
 特に書き手さんは一見の価値あり。己の立ち居地を見つめ直すきっかけになるかも。(Aさん)

 

 私は運が良いと思う。
 小説というものを書き始めてすぐに、★がガンガン入る状態というのを経験した。嬉しいというより怖かった。
 あの時怖いと感じたからそうならずに済んだだけで、もしもあれが無かったらこの主人公と同じようになっていたかもしれない。
 ★が入る、レビューが入る、うれしくなって何度も何度も確認して、反応が無いと何度も何度もページをリフレッシュする。それだけで一日が過ぎて行ったら、それはもう作家じゃなくて廃人だ。
 究極のところ「書きたいから書いている」のだけれど、書いたからには「読んで欲しい」のがクリエイターだ、それは誰にも等しくある欲求だろう。当然私もその例に漏れない。
 問題はその欲求を作家自身が制御できるかどうかだ。言い換えるなら、欲求を制御するか、欲求に制御されるか、だ。それを決めるのは他でもない、作家自身なのだ。(Kさん)

 

 

あとがき

 承認欲求をテーマに書いた作品でしたが、読まれたいと渇望する書き手がひしめき合ってるカクヨムでは、この作品の主人公はまるで自分事のように感じられたようで、数えきれないくらいのコメント、評価をいただきました。でももしかしたら、承認欲求に一番苛まれていたのは、まさにこの作品を書いたときの自分自身だった気がします。

 ですが、この承認欲求というものは、単に作家だけではなく、誰しもが心の奥底に持っているんじゃないんでしょうか。

 ブログ書いてるけど、さっぱり読んでくれない。
 SNSに投稿したけど、誰も反応してくれない。

 おそらく誰しも、心のどこかで、こんなことを思っているんじゃないでしょうか。
 ネットテクノロジーによりコミュニケーションの幅が飛躍的に広がった現代、それは凄いことですが、反面、人間を孤独に追いやり、闇を深くしているような気もします。

 どうか皆さま、くれぐれも承認欲求に飲み込まれないようにお気をつけください。

 

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